2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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図3 P3HT/グラフェン混合比が分散性に及ぼす影響 P3HT/グラフェン分散液を乾燥させ、P3HT/グラフェン複合体を原子間力顕微鏡(AFM)および透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。その結果、大きさが100 nm~10 µm、単層含む5層以下のグラフェンを得ることができた。このことはP3HTがグラフェン剥離剤と機能していることを意味する。 図4 合成した側鎖の異なるポリチオフェン 図5 湿式フロー粒子像解析によるPTs/グラフェン分散液中のグラフェン薄片数、薄片サイズ 次にポリチオフェンの側鎖の分子構造がグラフェン剥離・分散に及ぼす影響を評価した。Mn=20000に分子量制御されたhexyl、hexyl(oxymethyl)、octyl、siloxane基を側鎖にもつPTs(それぞれP3HT、P3HOT、P3OT、P3SiT)を用いた(図4)。P3HTのみ異なる分子量(Mn =6000)のサンプルを比較として用いた。トルエンに薄片化黒鉛およびPTsを添加し、超音波処理(3時間、5時間)を行った後、吸光光度計によるグラフェン分散性評価を行った。さらに、湿式フロー粒子像解析装置を用いてPTs/グラフェン分散液中のグラフェン薄片数、薄片サイズ測定を行った(図 5)。PTsの添加により、グラフェンの剥片数が増加し、分散性が向上した。超音波時間も長い方が分散するグラフェン量が向上した。トルエン中にグラフェンを分散させるには、側鎖にヘキシル基を有するP3HTが最も適しており、また低分子量(Mn=6000)のP3HTが優れたグラフェン分散性を示すということが明らかになった。 さらに作製したP3HT/グラフェン複合体について、TEM、AFMを用いて層数、サイズ、および表面形態の顕微鏡観察を行った。分散液中のP3HT/グラフェン複合体を構造解析した結果、TEM、AFMから1~5層のグラフェンが観察され、剥離に成功したことが判明した。また、XPS、TGA測定では構造欠陥の少ないグラフェンを観察した。本手法によるグラフェン剥離および分散でグラフェンが損傷することがないことが明らかになった。以上から、低分子量(Mn=6000)の高立体規則性P3HTを用いることで、有機溶媒中のグラフェン剥離に成功したといえる。 PTs/グラフェン分散液を導電性微粒子のコーティングに応用を検討した。具体的には導電性銅メッキ微粒子(銅微粒子)へP3HT/グラフェン複合体を被覆し、導電性を維持したまま耐酸化性付与を目指した。この銅微粒子を強制的に加速酸化処理すると未被覆銅微粒子は酸化に伴い電気抵抗値が増大したのに対し、P3HT/グラフェンで被覆した銅微粒子は高い電気伝導性を維持し、顕著な耐酸化性を示した。これらの結果より、銅表面へP3HT/グラフェン塗布によるガスバリア導電性塗膜の作製に成功した2。 3. 今後の展開 現在、我々は次の研究ステップとしてP3HTを用いた天然黒鉛からのグラフェン剥離よびP3HT/グラフェン複合体による防さび効果の実証をトライしている。これらの研究を通して、その特徴的な物性を損なわずにグラフェンを有効利用する方法、特に工業化可能な方法の開発につなげていきたい。 4. 参考文献 (1) Tamba, S.; Shono, K.; Sugie, A.; Mori, A. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133 (25), 9700–9703. (2) Iguchi, H.; Higashi, C.; Funasaki, Y.; Fujita, K.; Mori, A.; Nakasuga, A.; Maruyama, T. Sci. Rep. 2017, 7, 1–8. 5。 連絡先 078-803-6070 tmarutcm@crystal.kobe-u.ac.jp −41−

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