2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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海海綿綿動動物物由由来来生生理理活活性性物物質質のの生生合合成成機機構構解解析析 北海道大学大学院薬学研究院 教授 脇本 敏幸 1. 研究の目的と背景 海綿動物は多種多様な共生微生物を宿す付着性の多細胞動物である.世界中の海に生息し,1万種が現存するといわれる海綿動物からは,これまで2万以上の生理活性物質が単離,報告されてきた.ランダムスクリーニングによって見出された数多くの細胞毒性物質の中には,pM程度の濃度で強力な細胞毒性を示す化合物も少なくない.しかしながら,それらの多くが稀少かつ複雑な構造を有するために,抗がん剤として研究開発が進んだ化合物は極めて少ない.一方で,それら海綿由来細胞毒性物質のほとんどは共生微生物によって生産されることが示唆されている.本研究では医薬品資源として有望な海綿由来稀少生理活性物質の生合成遺伝子を探索し,生産菌や生合成経路を解明し,可培養化や異種生産を目指した基礎的知見を得る. Spongistatin 1は,アリゾナ州立大学 G. R. Pettitらがモルジブ近海の海綿Spongia sp.より見出した細胞毒性物質である(図1).Spongistatin 1の細胞毒性活性は極めて強力であり,各種がん細胞に対して数十pMのIC50値を示す.微小管重合阻害作用が作用機序として明らかになり,抗がん剤として有望視されている. 図1 Spongistatin 1の構造 沖縄およびインドネシア産のTheonella swinhoeiに特徴的な化合物としてtheonellapeptolide類(図2)があげられる.Theonellapeptolide類は,1986年に北川らによって海綿T. swinhoeiより初めて単離された大環状デプシペプチドである.Theonellapeptolide IdはN-メチルアミノ酸やDアミノ酸の含有率が高いデプシペプチドであり,ウニ卵割阻害活性,Na+,K+イオン輸送活性,ATPase阻害活性,骨髄腫細胞に対する細胞毒性などの生物活性を示す.さらに,脂肪族アミノ酸やN-メチルアミノ酸に富む大環状構造は免疫抑制剤であるシクロスポリンとも類似しており,実際に混合リンパ球反応において抑制効果が認められている. 図2 Theonellapeptolide Idの構造 Calyculin Aは伊豆半島産チョコガタイシカイメン(Discodermia calyx)に含まれる細胞毒性物質である(図3).Calyculin Aはタンパク質脱リン酸化酵素1および2Aを特異的に阻害し,各種がん細胞に対してpMオーダーで増殖阻害活性を示す.我々は伊豆半島産海綿D. calyxよりメタゲノムライブラリーを作製し,ポリケタイド合成酵素遺伝子に保存性の高い配列を足掛かりとしてスクリーニングを行った.その結果,全長150 kbに及ぶ長大な生合成遺伝子クラスターの取得に至った.さらに,遺伝子クラスターの局在を解析することで,calyculin Aは海綿共生微生物Entotheonellaによって生合成されることを突き止めた. 図3 Calyculin Aの構造 OHOHOOHHOHMeClHOOOOAcOHOMeOHOOMeMeOAcHOOMeHOHHOHHMespongistatin 1ONHONONHOONHNOOHNHNONHONOHNHNNNOOOOOOtheonellapeptolide IdNCOHOHOMeOOOPOHOHOOHONNHOMeOOHOHMe2Ncalyculin A−46−発表番号 23〔中間発表〕

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