2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ることが知られている。また、TMPはアミノ基をもち、これを介して様々な化学スイッチを導入できることと期待される。このTMPと蛍光色素をリンカーを介して結合したプローブ分子を7種類合成した(図3A)。これらプローブ分子に対して組み換えeDHFRタンパク質を添加したところ、4倍の蛍光変化を示すものを見出した(図3B)。また、このプローブ分子が細胞内でeDHFRを染色できるかを検討した。Hela細胞内にH2B-eDHFR-EGFPを発現し、プローブ分子を添加し、洗浄せずに共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、核内から蛍光が見られた(図3C)。この蛍光はEGFPの蛍光とよく重なること、H2B-eDHFR-EGFPを発現していない細胞からは観察されないこと、過剰のTMP添加によって消失することが見出された。したがって、合成したプローブ分子は細胞内でeDHFRに特異的に結合し、蛍光を発するということが示された。 図3プローブ分子の検討 (A) プローブ分子のデザイン (B) 蛍光スペクトル変化 (C) 核に発現させたDHFRのイメージング画像 続いて、人工オルガネラとしてタンパク質の自己組織化によって形成される構造に着目した。このようにタンパク質によって作られる構造を利用すれば、遺伝子工学を用いることでさまざまなタンパク質ドメインを融合することができる。すでに報告されている人工オルガネラ形成ドメインとして、p62由来のPB1ドメインと、蛍光タンパク質azami greenを使用した1。これらのタンパク質ドメインをリンカーを介して融合し、さらにeDHFRを融合したコンストラクトPB1-AG-DHFRを作製し、細胞内に発現させたところ、細胞内から輝点状に蛍光が観察された。このことからPB1-AG-DHFRは細胞内で自己組織化することによって人工オルガネラを形成することが明らかとなった。一方で、PB1-AG-DHFRを恒常的に発現する細胞をつくることは出来なかった。また凝集性が高く流動性も低いことがわかった。したがって、これらを改善すべく新しく人工オルガネラ形成ドメインの探索を行った。さまざまなオリゴマー形成ドメインや天然変性領域を融合したキメラタンパク質を作製し、細胞内に発現し、その状態を共焦点レーザー顕微鏡によって観察した。その結果、流動性をもち、安定に発現することのできるタンパク質のペアを見出した。 図4 細胞内に形成させた人工オルガネラのイメージング画像 3. 今後の展開 今後、得られたプローブ分子にさらに化学スイッチを導入することで蛍光高感度検出システムを構築したい。さらに、さまざまな細胞内イベントにおける微量化学種の振る舞いをイメージングすることで細胞内の分子メカニズムを明らかにしていくことを考えている。 4. 参考文献 1) Watanabe, T. et al. Sci Rep 7, 46380 (2017). 連絡先 〒466-8555 名古屋市昭和区御器所町 4号館210室 Tel: 052-735-5049 E-mail:tyoshii@nitech.ac.jp リガンド(TMP)タグ蛋白質に結合できる。蛍光色素OOONNNH2H2Nさまざまな化学スイッチを導入蛍光スペクトルEGFPProbeAABBCC細胞自己組織化−55−

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