2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
62/206

液液液液二二相相界界面面にに構構築築ししたた柔柔ららかかいいDNA構構造造体体膜膜ににおおけけるる 疎疎水水性性基基質質のの低低温温触触媒媒変変換換 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 助教 石川 大輔 1. 研研究究のの背背景景とと目目的的 細胞は分子認識,代謝,運動が互いに複雑かつ精緻に連動して機能する協奏的システムであり,その人工的構築に対し多様なアプローチが試みられている.細胞の存続に欠かすことができない代謝システムに着目すると,特定の物質に対し極めて特異的かつ高効率の化学変換が行われている.この代謝システムの機能を支えている天然酵素を人工的に合成することは非常に難しく,アミノ酸を複雑かつ絶妙に重合させた人工酵素からなる細胞様代謝システムの実現は遠い目標となっている. 一方,天然由来の微生物や細菌,酵素を利用した有用物質生産は,発酵産業として古くから存在する.さらに,極限環境微生物と呼ばれる地球上の極端な環境に適応して生息している細菌からは,温度,pH,圧力などに耐性を有する酵素を抽出することができ,これらを利用した人工代謝システムによる化学物質生産,創薬研究がすでに盛んに行われている.しかし,実際の細胞のように,外部から刺激を受けて柔らかい空間が摂動する動的代謝システムの構築は未だ為されていない. そこで本研究では,有機溶媒相と水相の二相界面において力学的な動作(メカニカルストレス)によって変形可能な柔らかい空間を開発し,低温で進行する動的触媒システムを構築することを目的とした. 2. 研研究究内内容容 2.1 研研究究目目標標 研究遂行にあたり,以下の目標を設定した.下記目標を達成することで得た知見を融合し,力学的刺激に応答可能な動的低温触媒反応場を構築する. [[目目標標1]] 精密に設計できる触媒反応場構築 DNAをサブナノオーダーの精度で加工できる超高精度高分子素材と見なし,その塩基配列設計によるプログラマビリティおよび1本鎖DNAのもつ構造柔軟性とDNA二重らせん構造のもつ剛直性を利用し,有機溶媒耐性酵素や金ナノ触媒の導入が選択的に可能,かつ力学的に形状変形可能なDNAナノ反応場を作製する. DNAナノ反応場の設計と作製に試行錯誤を繰返したため,予想外に時間を費やした.しかし,現状両親媒化DNAナノ反応場の開発が無事完了しているため,研究期間中に遂行できなかった実験実施の見通しは立っている. [[目目標標2]] 触媒反応場における基質の変換反応実現 上記[目標1]で得たDNAナノ反応場に有機溶媒耐性酵素および金ナノクラスター触媒を固定し,これを有機相中水滴(油中水滴)の界面に集積させて界面膜リアクターを作製し,有機相中基質の化学変換を行う. 2.2 研研究究結結果果とと考考察察 [[目目標標11]] i. 両両親親媒媒化化DDNNAAナナノノ反反応応場場のの設設計計とと作作製製 報告者はDNAオリガミ[文献1]を用いて,DNAナノ反応場の設計を行った.DNAオリガミとは,DNAの塩基配列がその相補鎖とのみハイブリダイゼーションするという特有の性質を活かしたナノ構造体形成手法であり,ナノスケールの二次元および三次元DNAナノ構造体がこれまでに多数報告されている.このようなDNAオリガミによるナノ構造体設計は,caDNAno[文献2]というフリーソフトウェアを用いて誰でも実施することが可能である.DNAナノ反応場の設計例と,その常温における熱力学的に安定な構造をそれぞれ図1a,bに示す.このDNAナノ反応場は7249塩基をもつ環状1本鎖DNA(M13 mp18)と188本のステープル1本鎖DNAからなる構造体である. DNAナノ反応場の形成は,ゲル電気泳動から判断可能であるが,微視的な構造情報は得られない.そこで本研究では,DNAナノ反応場の形成を視覚的に確認するため負染色透過電子顕微鏡(TEM)観察を行った.結果,設計した通りのDNAナノ反応場が形成されていることが明らかとなった.また,取得した負染色TEM画像からDNAナノ反応場の内角の定量評価を行った.図2aに示す負染色TEM像にみられるDNAナノ反応場の内角をフリーソフトウェアImageJ[https://imagej.nih.gov/ij/]を用いて計測したところ,図2bに示す分布が得られた.DNAナノ反応場は常温において内角がほぼ90°であり,四隅が柔−56−発表番号 28 〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#62

このブックを見る