2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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脂脂質質二二重重膜膜中中ででののToll様様受受容容体体ととリリガガンンドドのの相相互互作作用用のの構構造造基基盤盤解解明明 東京大学大学院薬学系研究科准教授 大戸梅治 1. 研究の目的と背景 自然免疫は微生物の感染に対する生体の初期防御反応である。微生物の構成成分は一回膜貫通型の受容体であるToll-like receptors (TLRs)などの病原体センサーによって認識され様々な免疫応答を引き起こす。これら受容体は,様々な病気の治療薬のターゲットとして注目されている。TLRは、ヒトではTLR1からTLR10の10種類が存在する(下図)。細胞外ドメインはロイシンリッチリピート(LRR)で構成されており、それぞれのTLRは異なる病原体由来のリガンドを認識する。 図1Toll-like receptors 研究代表者らおよび他の研究グループによって、TLRの細胞外ドメインについては多くの構造情報が蓄積されている。TLRは細胞外ドメインでそれぞれ固有のリガンドを特異的に認識し、それに伴い細胞外ドメインが2量体化する機構が明らかになってきている。一方で、これらの構造情報はいずれも細胞外ドメインだけのものであり、リガンド認識に伴い膜を隔てて細胞内にどのようにシグナルが伝達されるのかという真の意味でのシグナル伝達機構は明らかになっていない。また、これを具体的に実証しようとする研究はほとんど行われていない。現状では、細胞外ドメインの2量体化に伴い細胞内のTIRドメインが2量体化することで、下流のアダプター分子との相互作用が可能となりシグナルが伝達されると想像されている。 本研究課題では,全長のTLR受容体を用いて細胞外ドメインと細胞内ドメインの協働性を構造生物学的に明らかにし、真の意味でのリガンド認識とシグナル伝達機構を明らかにすることを目的とする。具体的には、膜上でのTLR全長のリガンド結合に伴う2量体化、2分子の膜貫通領域間の間および特定のリン脂質との間の相互作用、細胞内のTIRドメイン間および下流にシグナルを伝達するアダプター分子との間の相互作用を構造生物学的な観点から明らかにする(図2)。 図2TLR全長の構造解析 2. 研究内容(実験、結果と考察) 脂質二重膜環境を人工的に再現したナノディスク (ND) にTLR全長を再構成した試料 (TLR-ND) を調製し、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を行うことを目指した。これまでの取り組みにより、ヒト (h) 由来のTLR全長の中で発現が良好であるhTLR3に関して、構造解析のために十分な収量の精製試料の調製が可能となっていたため、本研究ではhTLR3について重点的に研究を進めた。 まず精製したhTLR3全長試料をNDへ再構成する条件の検討を行った。単量体のhTLR3全長の再構成に関して、NDを構成する膜足場タンパク質MSPの発現領域、NDの脂質組成、hTLR3濃度などを検討した。また、リガンド (dsRNA) を介して二量体化させたhTLR3全長の再構成に関して、NDの脂質組成、リガンドの修飾、hTLR3間のクロスリンクなどを検討した。再構成後の試料は、SDS-PAGE、ゲルろ過クロマトグラフィー、および電子顕微鏡により評価した。また電子顕微鏡Titan Kriosで収集したデータを用いて単粒子解析を行った。 単量体のhTLR3全長をNDに再構成する条件検討に−58−発表番号 29 〔中間発表〕

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