2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ACQOSハプロタイプを有し、塩馴化後浸透圧耐性を示すaccession、Pog-0とaod13を掛け合わせてF1を作出し、自家受粉により獲得したF2を用いてマッピングした。その結果、第3染色体下腕、222kbp以内に原因遺伝子領域を絞り込むことに成功した。次に次世代シーケンサーを用いて野生型のBu-5とaod13のゲノムシークエンスを決定し、二者間の非同義置換を検出した。その結果、aod13で生じた非同義置換は、ゲノム全体では2414遺伝子中に存在し、マッピングで絞り込んだ222kbp内には6遺伝子中に存在することが明らかとなった。そこで、これら6遺伝子のいずれがaod13の原因遺伝子であるかを確かめるため、それぞれの遺伝子をaod13に形質転換し、塩馴化後浸透圧耐性が回復するか相補性試験を行った。その結果、6つの候補遺伝子のうち1つの遺伝子を導入した形質転換体のみにおいて、野生株同様の耐性を示したことから、該当遺伝子が原因遺伝子、AOD13であることが明らかとなった。 aod13の変異部位を調べたところ、1塩基欠失によりフレームシフトが生じており、直後に終止コドンとなる変異であった。AOD13は、シグナル伝達システムとして知られるMAPKカスケードの一員であるMPKの抑制因子としての機能が知られている遺伝子であった。酸化ストレス、病原菌、塩ストレスやUVなどのストレスに曝されるとAOD13が不活化されることで、MPKが活性化し、ストレス応答を促すことが報告されている。またAOD13変異は、塩ストレスに応じてNa+輸送体を活性化することで耐塩性を向上させることが知られている。そこで、aod13の塩ストレス条件下でのNa+含量および耐塩性を調べたところ、野生株と比較して低いNa+含量、かつ耐性を示した。 このようにAOD13は、塩ストレスなど様々な環境ストレス応答を負に制御することが知られているが、aod13変異は塩馴化後浸透圧ストレスや単純な浸透圧ストレスに対して感受性を示すことから、これまでに報告がない、浸透圧ストレス応答を正に制御する機能の存在が示唆された。 4)塩馴化後浸透圧耐性におけるAOD13の機能解明 (塩馴化後)浸透圧耐性におけるAOD13の機能を明らかにするために以下の実験を行った。浸透圧耐性には、植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)が重要な役割を果たすことが知られているため、aod13のABA感受性を調べた。1 µM ABA培地で2週間生育させた個体の緑化率を評価したところ、野生型Bu-5と同程度の緑化率を示したことから、ABAに対する感受性は正常であることが示唆された。次に浸透圧誘導性遺伝群の発現量解析を行った。その結果、浸透圧ストレス下において、aod13は野生株と比較して発現量が低いことが示唆された。また、浸透圧ストレスに曝すと活性酸素種(ROS)の消去系遺伝子群の発現が誘導されることから、それらの発現解析も行ったところ、浸透圧誘導性遺伝群と同様、aod13は野生株のBu-5と比較して発現量が低いことが明らかとなった。そこで、ROSの一種であるH2O2に対する感受性を調べたしたところ、aod13は野生株と比べて、H2O2に高感受性であることが明らかとなった。以上のことから、aod13が塩馴化後浸透圧ストレスあるいは浸透圧ストレスに対して感受性を示す原因として、浸透圧ストレス誘導性遺伝子群の正常な転写誘導の欠損、およびROS消去系の機能低下が示唆された。 3. 今後の展開(計画等があれば) AOD13の欠損がMPKの活性化を行っているのか、またAOD13の欠損がどのようにしてABA非依存的経路の浸透圧ストレス応答遺伝子群の発現誘導に至るのか明らかにする必要がある。現在、これらの点に取り組み、論文投稿中にある。また、本研究により、aod13を含む多くの変異株の単離に成功した。非常に興味深いことにそれぞれの変異株についてラフに原因遺伝子座を調べたところ、少なくとも7カ所の遺伝子座に落とし込むことが出来た。これらは独立して塩馴化後浸透圧耐性に寄与することが考えられる。これらの原因遺伝子同定により、高い耐塩性を示す植物が有する塩馴化後浸透圧耐性の分子メカニズムが明らかになることを期待している。 4. 参考文献 1) T. Katori, T. Taji他, 2010. J. Exp. Bot. 61, 1125-1138. 2) H. Ariga, T. Taji 他, 2017. Nature Plants, 26(3): 17072. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 東京農業大学生命科学部バイオサイエンス学科 住所:東京都世田谷区桜丘1−1−1 Tel: 03-5477-2760 Email: t3teruak@nodai.ac.jp −63−

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