2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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近赤外蛍光体フタロシアニンと抗体の融合による、光を用いた小細胞肺がん、大細胞肺がんに対する新規治療法の開発 名古屋大学高等研究院・医学系研究科病態内科呼吸器内科 S-YLC特任助教 佐藤 和秀 1. 研究の目的と背景 小細胞肺癌(Small Cell Lung Cancer:SCLC)は肺癌の約15%を占める高悪性度の腫瘍である。進展型で発見されることが多く、限られた治療手段しかなく予後が悪い。2018年に進展型小細胞肺癌の一次治療において、抗PD-L1抗体アテゾリズマブを化学療法に上乗せすることで、既存治療より良好な全生存期間となることが示された1。一次治療で既存治療を上回る結果が示されたのは実に20年以上ぶりであり、未だ小細胞肺癌に対する新規治療への要望は多い。一方、大細胞癌は、2%程度を占める稀な肺がんで、大細胞神経内分泌腫瘍(Large Cell Neuroendcrine Cancer: LCNEC)ともよばれ、治療法が定まっていない。 Notch signaling pathwayのリガンドであるDelta-like protein 3 (DLL3)は近年見出された、SCLC, LCNECに特異的な治療標的である。近年DLL3を標的とした抗体薬物複合体、Rovalpituzumab-tesirine (Rova-T)が作成され、臨床試験が行われてきた2,3。Rova-TはDLL3を標的とする初めての薬剤で期待されていたが、2つの第3相試験において否定的な結果が示され、2019年8月に開発が終了となった。しかしながらDLL3のSCLC,LCNECに特異的に発現するという特性は不変であり、今なお有望な治療標的である。 近赤外光線免疫療法は2011年に米国NIHの小林らによって報告された新機序の癌治療法である4。標的細胞が発現する抗原に対する特異的抗体にIR700という光感受物質を結合させ、抗体-光感受物質が細胞表面に結合しているときに波長700nm付近の近赤外光を照射すると、細胞にネクローシスが誘導される5。抗体と光照射によって二重に対象を選択しており、極めて選択性の高い治療法である。現在、EGFRを標的とした局所再発頭頸部扁平上皮癌に対する国際第3相試験が実施されており(LUZERA-301, NCT03769506)、数年以内の臨床導出が期待されている。 今回我々は抗DLL3モノクローナル抗体であるRovalpituzumabとNIR-PITを用い、前臨床の小細胞肺癌に対する新機序治療法確立を目的に研究を行った((図図11))。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 22..11.. IIRR770000とと抗抗DDLLLL33抗抗体体のの結結合合 まず最初に抗ヒトDLL3モノクロナール抗体であるRovalpituzumabにIR700を付加し、Rova-IR700を作成した。SDS-PAGEでRova-IR700は抗体のバンドに一致してIR700の蛍光を認めたが、Rovalpituzumab単独では検出可能な蛍光シグナルを示さなかった(図図22AA)。DLL3およびRova-IR700を用いたWestern Blottingでは、Rova-IR700がDLL3抗原に結合することを確認した(図図22BB)。フローサイトメトリーアッセイにおいて、SBC3上のDLL3シグナルは、過剰なRovalpituzumabの添加によりブロックされた(図図22CC)。 マウス線維芽細胞3T3およびヒト正常気管上皮HBEC3ではシグナルがほとんど観察されなかった。これらの結果は、RovalpituzumabとIR700が結合し、Rova-IR700がDLL3に特異的に認識することが確認された。 22..22.. DDLLLL33発発現現細細胞胞株株ににおおけけるるrroovvaa--IIRR770000をを用用いいたたiinn vviittrroo NNIIRR--PPIITT ヒト小細胞肺がん株SBC5とマウス繊維芽細胞にDLL3遺伝子とluciferase-GFP遺伝子を導入し、SBC5-DLL3-luc-GFPおよび3T3-DLL3-luc-GFP を作成した。SBC5-DLL3-luc-GFPおよび3T3-DLL3-luc-GFPの蛍光顕微鏡観察をNIR-PITの前後に行った。Rova-IR700を投与して1日後に、近赤外光(4 J/cm2)へ −66−発表番号 33〔中間発表〕

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