2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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次に、タッチスクリーン式弁別試験を用いて、「課題に対する動機づけ行動」を測定することで、無理難題にぶつかった時の課題遂行力におけるオレキシン神経の機能的役割について検討した。Progressive Ratio試験において、clozapine-N-oxideを投与してオレキシン神経を活性化させると、やる気の指標であるブレーキングポイントが高くなった(図2)。一方、AAV-FLEX-DTAでオレキシン神経を脱落させると、ブレーキングポイントは低下した。 蛍光イメージングシステム(ファイバーフォトメトリー)を用いて、動機づけにおけるオレキシン神経活動を測定した。AAV-FLEX-GCaMP6をインジェクションしたorexin-Creラットの視床下部にファイバーを留置し、カルシウム流入に依存した蛍光を測定することで、オレキシン神経の活性化を測定した。予備検討段階であるが、エアパフ刺激を与えると、蛍光強度が高くなったことから、本システムを用いると、オレキシン神経活動を測定できる可能性が示唆された。現在継続してシステムの立ち上げを行っている。 以上、orexin-Creラットを用いることで、ラット脳におけるオレキシン神経系を特異的に遺伝子操作することが可能となり、やる気を行動科学的側面から測定することが可能となった。これら餌報酬の獲得に向けたやる気制御機構におけるオレキシンの役割を解明することで、新たな高次脳機能におけるオレキシンの意義を明らかにできると考えている。また、食報酬回路はヒトの食欲調節において特に重要と考えられているため、「止められない、止まらない」の衝動的無茶食い行動の抑制や肥満抑制などの食欲調節に向けた創薬研究への応用が期待される。 3. 今後の展開(計画等があれば) 今後は、オレキシン神経の脱落はやる気行動を減弱させたことから、臨床でのナルコレプ―患者への治療を目指し、メチルフェニデートやモダフィニルといった薬剤の効果について検討する予定でいる。また、確率逆転学習を用いて、オレキシン神経の随伴性学習に対する影響を検討する予定でいる。また、CRIPR/Cas9システムを導入し、オレキシン受容体をノックダウンさせるためのAAVの開発も行う予定でいる。 4. 参考文献 1. Baumeister RF. Self-regulation, ego depletion, and inhibition. Neuropsychologia., 65:313-319, 2014. 2. Baumeister RF and Tierney J. Willpower, 渡会圭子(訳), 2013. 3. Gailliot MT, Baumeister RF. The physiology of willpower: linking blood glucose to self-control. Pers Soc Psychol Rev 11(4):303-327,2007. 4. Graziano WG, Habashi MM. Motivational processes underlying both prejudice and helping.Pers Soc Psychol Rev., 14(3):313-331, 2010. 5. Harris GC, Wimmer M, Aston-Jones G. A role for lateral hypothalamic orexin neurons in reward seeking. Nature, 22;437(7058):556-559, 2005. 6. Mizoguchi H, Yamada K. Methamphetamine use impairs cognitive function and decision-making. Neurochem Int., 124:106-113, 2019. 7. Mizoguchi H, Katahira K, Inutsuka A, Fukumoto K, Nakamura A, Wang T, Nagai T, Sato J, Sawada M, Ohhira H, Yamanaka A, Yamada K. The insular neural system controls decision-making in healthy and methamphetamine-treated rats. Proc Natl Acad Sci U S A., 112(29):E3930-E3939, 2015. 8. Sakurai T. The role of orexin in motivated behaviours. Nat Rev Neurosci., 15(11):719-731, 2014. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) E-mail: h-mizo@riem.nagoya-u.ac.jp −69−

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