2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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超超解解像像イイメメーージジンンググ技技術術RREESSOOLLFFTTにに応応用用すするる 蛍蛍光光ススイイッッチチンンググ分分子子のの設設計計とと開開発発 大阪大学大学院工学研究科 准教授 堀 雄一郎 1. 研究の目的と背景 蛍光スイッチング分子は,光照射により蛍光強度を制御できる分子のことをいう。超解像顕微鏡法の一つであるRESOLFTは,光の回折分解能を越えて生体分子の局在を可視化するために蛍光スイッチング分子を必要とする。RESOLFTでは、蛍光スイッチング分子でラベル化した生体試料に対し、ドーナツ状の不活性化光を照射し、その照射部位では蛍光スイッチング分子が励起光を当てても蛍光を発さない状態にする。この結果、励起光の照射部位の中心部の微小領域のみから蛍光が観測され、空間分解能が向上する。 これまでに,蛍光スイッチング分子として,蛍光タンパク質が用いられてきた。一方,蛍光タンパク質は光褪色しやすいため,光照射を繰り返す長時間のイメージングでは蛍光シグナルが徐々に減弱することが問題となっていた。このため,より光安定性の高い合成蛍光色素を用いた蛍光スイッチング分子の開発が期待されていた。しかしながら,現在報告されているものとして,シアニン系色素やジアリールエテンがあるが,前者は,蛍光スイッチングに細胞毒性のあるチオールを用いる必要があり,後者は光褪色しやすいことや,生細胞イメージングで必要な水溶性もしくは細胞膜透過性がないことが問題であった[1-3] 。本研究では,この問題を解決するために,フォトクロミック分子を利用して、毒性のある添加物を必要とせず、蛍光色素の光褪色が起こらない蛍光スイッチング分子を開発した。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 蛍光スイッチング分子を開発するうえで、光異性化分子であるアリールアゾピラゾール(Arylazopyrazole, AAP)に着目した。AAPは、二つの異なる波長の光を照射することでE-Z異性化反応を引き起こし、極めて高い異性化効率(~98%)を示す[4]。また、光照射後のZ体は熱安定性に優れており、熱異性化反応がほとんど起こらない。そこで、蛍光スイッチング分子を開発するために、AAPを光照射により構造制御可能なリンカーとして用い、その両端に蛍光色素と消光基を繋いだ分子を設計した。この分子設計では、AAPがZ体であるときのみ蛍光色素は消光基と会合し消光するのに対し、E体に構造変化すると蛍光色素と消光基が空間的に離れるため、会合消光が解消されると期待した(図1)。蛍光色素としては光安定性の高いTAMRAを、消光基としては、TAMRAの蛍光を会合消光できることの分かっているジニトロベンゼン(DNB)を選択した。 光照射により分子内会合を制御できるように、AAPと TAMRAまたはDNBを連結するリンカー分子の構造を、MacroModelを用いた分子力学計算によりシミュレーションした。その結果、Z体で会合しE体で会合が解消されると期待される分子を選択し、SC1、SC2及びSC3と名付けそれぞれ合成した。 SC1~3の吸収スペクトルを測定したところ,AAP由来の350 nm付近の吸光度が,光照射に伴い低下したことから,AAP部位がE体からZ体へと光異性化していることが示された。次に,蛍光スペクトルを測定したところ,光照射によるE体からZ体への光異性化に伴い,全ての分子で,蛍光強度が減少した.最も大きな蛍光強度変化を示したのがSC1であり,50%を超える蛍光強度の低下を示した。これらの分子の蛍光量子収率及び蛍光寿命を測定した。その結果,光照射に伴い,全ての分子で蛍光量子収率の低下が確認された。また, SC1~3は異性体構造に関わらず,二成分の蛍光寿命を示した。それぞれの寿命は,光異性化反応に伴う変化をほとんど示さなかった。このため,蛍光量子収率の低下が起こっていることを鑑みると,光照射に伴う消光は静的消光であるといえ,基底状態における会合構造が光制御されてい図1. AAPを用いた蛍光スイッチング分子。 −70−発表番号 35〔中間発表〕

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