2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ケケミミカカルルババイイオオロロジジーーにによよるるオオーーキキシシンンデデググロロンン基基盤盤技技術術開開発発 国立遺伝学研究所 教授 鐘巻 将人 1. 研究の目的と背景 研究費受給者は植物ホルモンを培地に添加することにより、植物由来分解タグ(デグロン)を付加した標的タンパク質を分解するオーキシンデグロン(AID)法を開発した(Nishimura et al., Nature Methods, 2009; Natsume et al., Cell Reports, 2016)。すでに本技術は様々な細胞生物学研究分野で利用されているが、オーキシン非添加時にもデグロン付加した因子が弱い分解を受けるため、厳密な発現制御に支障をきたしていた。さらに、分解誘導時のオーキシン濃度が100〜500 µMと比較的高いため、マウスへの応用には薬理学的に懸念があった。これら問題点を克服するため、ケミカルバイオロジー的な手法を用いてAIDシステムの改良をおこなった。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) デグロンタグを付加した因子がオーキシン非特異的な弱い分解を受けるのは、ユビキチンリガーゼOsTIR1がオーキシン非依存的に弱い活性をもつためである。そこで、OsTIR1に対する阻害剤auxinoleを開発した。この化合物は、OsTIR1のオーキシン結合部位にはまり込み、デグロンの結合を阻害する(図1A)。培地にauxinoleを添加することにより、オーキシン非特異的分解を抑制できることを見出した(図1B)。さらに、分解後にオーキシンを除去して再発現させる際に、auxinoleを添加することにより、より素早い再発現が可能になることを見出し、これら結果を論文公表した(Yesbolatova et al., Methods, 2019)。 さらにAIDシステムを根本的に改良するため、OsTIR1のオーキシン結合部位に変異を導入し、オーキシンへの反応性を失わせたOsTIR1*と、OsTIR1*にのみ反応する新規化合物5-Ph-IAAを見出した(図2A)。研究費受給者はこの新たなシステムをAID2と命名し、従来型AIDシステムとの比較検証をおこなった。AID2は従来に比べ、 1. リガンド非依存的な分解の大幅な抑制(図2B) 2. 分解誘導に必要なリガンドの大幅な濃度低下(1/670程度)(図2B) 3. より迅速な分解 といった優れた特性があることが明らかになった。 従来のAID技術では、オーキシン非依存的分解により、標的因子によっては発現量の低下により変異細胞が作成できないようなケースにおいても、AID2を利用すれば細胞株を樹立可能である(図3A)。また、タグを付加した因子は低濃度の5-Ph-IAAで分解誘導することが可能である。(図3B)。 −72−発表番号 36〔中間発表〕

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