2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
83/206

いる。また、キラルビスオキサゾリン配位子の側鎖の置換基とβ-ジケトナート配位子との間に吸引的な相互作用が働くことで、希土類イオンに配位した3つのβジケトナート配位子が不斉の位置に配列しキラル構造が形成されることを見出している。本研究では、このような配位子-配位子間の相互作用が多核希土類錯体の構造転移を引き起こし、希土類イオン核4つと架橋型配位子6分子からなる新規環状多核ランタノイド錯体が形成されることを見出した。(1) 本研究では、希土類イオンとして、ユーロピウムイオン(Eu3+)やテリビウムイオン(Tb3+)、およびサマリウムイオン(Sm3+)を用いて、前駆体となる2核ランタノイド錯体を合成した。この2核ランタノイド錯体に対して3座の補助配位子としてキラルビスオキサゾリン配位子(Ph-Pybox)を2当量反応させると、組成式[Ph-Pybox]4(BTP)6(Ln3+)4で表される4核の錯体が形成されることが質量分析(ESI)から示された。トルエンとジエチルエーテルを結晶化溶媒として用いることで、X線結晶構造解析に適した単結晶を得ることができた。図3に希土類イオンとしてEu3+イオンを用いて合成した環状ヘリケート錯体のX線結晶構造解析の結果を示す。3座の補助配位子部分を除く架橋配位子(BTP)とEu3+イオンの配位構造に注目すると、2つのEu3+イオンが2つの架橋配位子によって連結されており、さらにこれら2つの架橋構造が2つの架橋配位子によって連結されることで環状のアングル構造が形成されていることがわかった。2つの架橋構造には2分子間のねじれに基づくキラリティーが誘起されており、(R)-Ph-Pyboxを用いて合成した場合と、その鏡像体である(S)-Ph-Pyboxを用いて合成した場合とで完全な鏡像関係が成立した。結晶中に含まれる溶媒分子のわずかな影響を除けば、環状ヘリケート構造中の4つのEu3+イオン核は全て等価であり、近接するEu3+イオン間の距離は10 Å程度であった。各Eu3+イオンにはそれぞれ、3分子の架橋配位子と1分子のビスオキサゾリン配位子が配位したN3O6型の9配位構造をとっており、ビスオキサゾリン配位子の側鎖置換基(-Ph基)と架橋配位子との間にはππ相互作用が形成されていることがわかった。この配位子-配位子間の相互作用が、Eu3+イオンに配位した3つの架橋配位子にアングル構造を形成するのに適した立体配置を与えることがわかった。4核の環状ヘリケート構造は上述の単結晶X線結晶構造解析から、4つの希土類イオン核が合計6分子の架橋配位子によって架橋されることで剛直な環状のアングル構造を形成しており、溶液中においても単一の安 図3環状希土類錯体の結晶構造 定化学種として構造を保持していると考えられる。本研究で合成した4核環状ヘリケートEu3+錯体の円偏光発光(CPL)および円二色性(CD)を測定した。Eu3+の5D0→7F1に由来する594 nm付近の磁気双極子遷移において強い円偏光発光が観測された。本研究で合成した4核環状ヘリケートEu3+錯体のglum値を求めると、[(R)-Ph-Pybox]4(BTP)6(Ln3+)4でglum = +0.22、[(S)-Ph-Pybox]4(BTP)6(Ln3+)4でglum = –0.20が得られた。 3. 今後の展開 本研究では、配位子-配位子間の相互作用に基づく多4核環状ヘリケート構造の構築と円偏光発光について報告した。その他にも、財団の支援を受け様々な成果を達成することができた。(2–7)今後は本研究で見出された知見を基盤とした研究展開をおこないたい。 4. 参考文献 (1) T. Y. Bing, T. Kawai, J. Yuasa, J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 3683-3689. (2) K. Nonomura, J. Yuasa, Inorg. Chem. 2019, 58, 6474–6484. (3) Y. Imai, J. Yuasa, Chem. Commun. 2019, 55, 4095–4098. (4) Y. Imai, J. Yuasa, Chem. Sci. 2019, 10, 4236–4245. (5) Y. Imai, Y. Nakano, T. Kawai, J. Yuasa, Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 8973–8978. (6) Y. Okayasu, H. Kamebuchi, J. Yuasa, Dalton Trans. 2018, 47, 6779–6786. (7) D. Ogata, J. Yuasa, Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 18424–18428. 5. 連絡先 〒162-0826 東京都新宿区 神楽坂1−3 yuasaj@rs.tus.ac.jp −77−

元のページ  ../index.html#83

このブックを見る