2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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溶溶媒媒和和フフララスストトレレーーシショョンンのの導導入入にによよるる超超イイオオンン伝伝導導性性LLiiイイオオンン電電解解液液のの創創製製 横浜国立大学大学院工学研究院 准教授 上野 和英 1. 研究の目的と背景 二酸化炭素排出量削減の一手として、電気自動車への転換が講じられている。これには、高出力且つ、大容量な蓄電デバイスが必要不可欠であり、Li系二次電池が最有力である。電気自動車の普及拡大にはLiイオン電池の高速充放電性能の改善が必要であるが、従来の電解液中の溶媒和の影響でLiイオンの移動度が低く、Liイオン輸率は0.3 ~ 0.4という低い値になる。これにより高速充放電時には、濃度分極を引き起こし電池性能が低下する。この解決には高イオン伝導率に加え、電解液中における高いLiイオン輸率を実現することが重要である。液体電解質に対して、近年Liイオンホッピングを輸送原理とし、高いイオン伝導性とLiイオン輸率を示す無機固体電解質材料が見出され、これを用いた全固体電池が高速充放電を実現可能なことが報告されている。しかし、固体電解質/電極間の界面接合や電池作製プロセスに課題を抱え実用化に至っていない。これまで、我々の研究グループではスルホン系溶媒やケトエステル、ジニトリル系溶媒を用いた高濃度Li塩電解液におけるLiイオンホッピング伝導機構を報告している。1-3従来の液体電解質、固体電解質の其々の課題を解決すべく、本研究では、無機固体電解質と同様に粘性に支配されずLiイオンホッピング機構によって高いLiイオン輸率を示し、高速Liイオン輸送が可能な新規液体電解質の設計指針を提示することを目的とした。具体的には、高濃度Li塩電解液の構成成分に弱配位性の溶媒とアニオンを組み合わせることで、配位サイトにおけるLiイオンの溶媒和状態を不安定化(溶媒和フラストレーション)させ、各配位サイト間をLiイオンが高速に交換し、輸送する新規液体電解質の開発を目指し検討した 。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) Li塩 としては弱配位性アニオンを有するLiN(SO2F)2 (Li[FSA])を用いた。環状カーボネートであるエチレンカーボネート(EC)またはF原子を導入したフルオロエチレンカーボネート(FEC)のいずれかを溶媒に用い、Li[FSA]と1:1.5 (Li塩:溶媒)のモル比で混合し、高濃度Li塩電解液を調製した。いずれもLi塩濃度が5 mol dm−3以上の高濃度Li塩電解液であり、室温で高粘性の液体であることを確認した。ここでは、一例として、溶媒(ECおよびFEC)のLiイオンへの配位性が高濃度Li塩電解液のLiイオン配位構造、Liイオン溶媒和の安定性、イオン輸送特性に及ぼす影響を調査した結果を示す。Liイオンに対する溶媒の配位力の違いの評価には、23Na NMR測定で得られたドナー数(DNNMR)を用いた。局所的なLiイオン配位構造はラマン分光測定によって評価した。Liイオンの溶媒和状態の安定性については、濃淡電池の起電力測定によって評価した。また、イオン輸送特性として、磁場勾配NMRにより電解液中の溶媒、アニオン、Liイオンの各自己拡散係数の測定、交流インピーダンス法によるイオン伝導率の測定、直流分極法によるLiイオン輸率の測定を行った。 NaClO4を溶解させたEC、FECの23Na化学シフトから、既報の経験式4を用いることで、DNNMRを見積もったところ、ECが11.6、FECが7.9であり電子吸引性のフッ素を導入したFECの方がECよりもドナー性が低く、弱配位性の溶媒であることが確認できた。また、FSAアニオン等のイミド系アニオンのドナー数は7~10程度4であり、FECはFSAアニオンと同程度のドナー数を有していることが分かった。 図図 1にラマン分光測定によって得られたLi[FSA]/EC = 1:1.5とLi[FSA]/FEC = 1:1.5の高濃度Li塩電解液におけるFSAアニオンのS-O伸縮振動由来のスペクトルを 図図1 高濃度Li塩電解液Li[FSA]/EC = 1:1.5および Li[FSA]/FEC = 1:1.5 のラマンスペクトル(1175 – 1275 cm–1). −78−発表番号 39〔中間発表〕溶媒和フラストレーションの導入による超イオン伝導性Liイオン電解液の創製

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