2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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示した。この結果より、従来の高濃度Li塩電解液2,3と同様に、どちらの高濃度Li塩電解液においてもLiイオンが直接アニオンに配位している接触イオン対またはイオン凝集体を形成していることが示唆された。また、Li[FSA]/EC = 1:1.5とLi[FSA]/FEC = 1:1.5においてスペクトルに大きな違いが観察されなかったことからアニオンの配位構造には大きな差異が無いことが分かった。 表表1 高濃度Li塩電解液中のLiイオン(DLi)、FSAイオン(DFSA)、溶媒(Dsol)の30°Cにおける自己拡散係数. 磁場勾配NMRによる各成分の自己拡散係数の測定結果を表表 1に示す。Li[FSA]/FEC = 1:1.5の方がLi[FSA]/EC = 1:1.5よりも各自己拡散係数が大きい。これはLi[FSA]/FEC = 1:1.5の粘性率(306 mPa s)がLi[FSA]/EC = 1:1.5の粘性率(439 mPa s)よりも小さいことに起因している。溶媒にECを用いたとき、溶媒とLiイオンの自己拡散係数値が概ね等しいことが分かる。このことからLi[FSA]/EC = 1:1.5では、溶媒がLiイオンに配位した状態で並進拡散していると考えられる。一方、溶媒にFECを用いた際、溶媒の自己拡散係数値がLiイオンに比べて大きい。ゆえに、Li[FSA]/FEC = 1:1.5では、Liイオンへの溶媒配位子交換速度がLi[FSA]/EC = 1:1.5に比べて速いことが考えられる。この結果は、FECがECよりも弱配位性であることに起因しており、Li[FSA]/FEC = 1:1.5中でのLiイオンの溶媒和状態がより不安定化していることを良く示している。 リファレンスに1M LiTFSA/プロピレンカーボネート(PC)溶液を用いた濃淡電池の起電力測定では、Li[FSA]/EC = 1:1.5とLi[FSA]/FEC = 1:1.5でそれぞれ0.20 V, 0.24Vの起電力を示した。これより、より大きな起電力を示すLi[FSA]/FEC = 1:1.5中でLiイオンがより活性化され、溶媒和状態が不安定な状態になっていることが確認できた。 イオン伝導率は30 °CにおいてLi[FSA]/EC = 1:1.5、Li[FSA]/FEC = 1:1.5でそれぞれ、0.8、1.0 mS cm−1であり、Li[FSA]/FEC = 1:1.5の方が高い値を示した。直流分極法(Liイオンのみが析出・溶解する条件下)から得られる分極曲線を図図2に示した。この結果から見積もられるLiイオン輸率は、Li[FSA]/EC = 1:1.5で0.57であったのに対し、Li[FSA]/FEC = 1:1.5では0.81という高い値であった。すなわち、Li[FSA]/FEC = 1:1.5では、Liイオン溶媒和がより不安定化することで、配位サイト間でのLiイオン輸送・交換頻度が増加しており、これが高いLiイオン輸率に大きく関与していると考えられる。 3. 今後の展開 Li[FSA]/EC = 1:1.5とLi[FSA]/FEC = 1:1.5の高濃度Li塩電解液の比較検討の結果、弱配位性溶媒を用いたLi[FSA]/FEC = 1:1.5中でLiイオンの溶媒和状態がエネルギー的により不安定化し、その結果、電解液中の配位サイト間の高速なLiイオン交換・輸送を引き起こしていることが考えられる。Li[FSA]/FEC = 1:1.5は、比較的高いイオン伝導率と高いLiイオン輸率から、Liイオン電池の液体電解質として優れた性質を示すことが期待される。今後、電気化学特性とLiイオン電池の充放電性能を詳細に評価し、弱配位性溶媒を用いた高濃度Li塩電解液の有用性を実証する。 4. 参考文献 [1] K. Dokko et al., J. Phys. Chem. B, 122, 10736 (2018). [2] S. Kondou et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 21, 5097 (2019). [3] Y. Ugata et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 21, 9759 (2019). [4] M. Schmeisser et al., Chem. Eur. J., 18, 10969 (2012). 5. 連絡先 住所:神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5 電話番号:045-339-3951 E-mail address: ueno-kazuhide-rc@ynu.ac.jpLi[FSA]/solvent = 1:1.5 DLi DFSA Dsol [×10-7 cm2 s-1] EC 0.47 0.38 0.48 FEC 0.72 0.57 0.85 図図2 Li対称セルを用いた直流分極曲線. −79−

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