2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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金金属属配配位位ササイイトトにに囲囲ままれれたた空空間間ををももつつ超超分分子子錯錯体体のの合合成成とと高高難難度度分分子子変変換換 筑波大学 数理物質系 化学域 助教 中村 貴志 1. 研究の目的と背景 金属錯体は、その置換活性な配位サイトに分子を結合して、分子認識や触媒反応などの機能を示す。これまで金属錯体の多くが、単核錯体の周囲配位子を設計・改変する指針で開発されてきた。複数の近接した金属中心をもつ錯体は、多点での金属配位に基づく分子捕捉や触媒活性などの、単核錯体にはない高度な機能を発現すると期待される。しかし、反応性の高い配位サイトを残したまま、複数の金属を規則正しい距離で配置することはチャレンジングな課題である。本研究では、金属錯体に囲まれた空間をもつ新規な超分子錯体を設計・合成することを目的とした。また、その空間を利用した選択的な分子捕捉や触媒反応などの機能の開拓を目指した。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 図1. 金属配位サイトに囲まれた空間をもつ大環状錯体。 (a) Bpytrisalen大環状錯体 [1M6Xn] (Xは交換可能な配位子)。 (b) Saloph-belt大環状錯体 [2M4X4n]。R: n-ヘキシル。 本研究では、2種類の大環状配位子を用いて検討を行った。一つはbpytrisalen H61である (図1a) 。Bpytrisalenの多核錯体において、N2配位部位であるbpyに結合した金属の配位サイトは内孔に向けて集積される。一方、N2O2配位部位であるsalenに結合した金属の配位サイトは、環状分子の平面とは直交して配置される。もう一つ子はベルト状の構造をもつsaloph-belt大環状配位子 H82 である (図1b) 。N2O2配位部位であるsalophが2本の共有結合でベルト状に連結された剛直な構造をもち、salophに配位した金属のアキシアル配位サイトは、環の内向きもしくは外向きに配置される。 Bpytrisalen配位子H61と、Ag(OTf)およびZn(OAc)2 (各3当量) を混合することで、亜鉛-銀異種多核錯体 [1Zn3Ag3Xn] (X = H2O, AcO– and TfO–) を得た。ここで、Zn2+はハードな金属イオンとしてN2O2 salen部位と選択的に反応し、一方でAg+はソフトな金属イオンとしてN2 bpy部位と選択的に反応した。単結晶X線構造解析より、錯体の詳細な構造を明らかにした (図2) 。Bpy部位のAg+にはAcO–とH2Oが配位する一方で、salen部位のZn2+にはTfO–とH2Oが配位しており、2種類の対アニオンが2種類の金属中心にそれぞれ選択的に捕捉されていることが明らかとなった (図2a) 。配位子H61自体は3回対称をもつ構造であるが、亜鉛および銀の配位構造に着目すると錯体全体で3回対称性は崩れていた (図2b) 。また、環の内孔で金属に結合したH2O, AcO–, TfO–配位子が興味深い水素結合ネットワークを形成していた (図2c) 。金属間の距離はいずれも約5–5.5 Åで、平面三角形上に配列しており (図2d) 、bpytrisalenが金属とその置換活性な配位サイトを精密に配置するための有用な大環状配位子であることが示された。[1] 図2. 単結晶X線解析により決定されたbpytrisalenの亜鉛-銀異種多核錯体 [1Zn3Ag3(H2O)7(OAc)2(OTf)3]2−の構造。水素とMes基は図中では省略。(a) 楕円体モデル (50%表示) 。(b) 大環状配位子16–によって塞がれていない亜鉛および銀の置換活性な配位サイト (マゼンタで表示) 。金属に配位している配位子は16–を除いて省略。(c) 金属間距離 [Å]。 また、金属配位サイトに囲まれた3次元的な空間の形成を目指して、bpytrisalenの多核錯体をさらに集積させた超分子錯体の形成を行った。Bpytrisalenの亜鉛6核錯体に対して、直線型 −80−発表番号 40〔中間発表〕

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