2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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の2座配位子であるdabco (1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン) を反応させた。その結果、bpy部位のZnの置換活性な配位サイトは反応しないまま残された状態で、salen部位のZnのアキシアル配位サイトに対してdabcoが反応し、ディスクリートなダブルデッカー型超分子錯体の形成に成功した (図3a) 。Bpy部位のZnは約5.5 Å × 8.5 Åの三角柱状に配置され、ダブルデッカー型錯体の内部には置換活性な配位サイトに囲まれた空間が存在していた (図3b) 。Bpytrisalen多核錯体に精密配置された配位サイトの直交性が活かされた結果である。[1] 図3. Bpytrisalenの亜鉛6核錯体とdabcoから形成されるダブルデッカー型錯体 [12Zn12(dabco)3(H2O)12](OTf)12。(a) ダブルデッカー型錯体形成の模式図。(b) X線結晶構造解析によって決定された [1Zn6(H2O)6]とdabcoの2:3錯体の構造。Bpy-Zn部分の置換活性な配位サイトをマゼンタで表示。 また、金属配位サイトに囲まれた空間を提供する新規な大環状分子として、N2O2配位部位であるsalophユニットを壁面とするベルト状分子、saloph-belt H82を設計・合成した。2つのサリチルアルデヒド部位と1つのo-フェニレンジアミン部位を同一分子内にもつ双腕型両官能性単量体を用いて、これらの2種類の部位から生成するsalophを動的な結合形成点として利用し、ベルト状の環状4量体H82を得た。続く金属錯形成により多核錯体 [2M4X4n] (M = Mn, Zn) を合成した (図4a) 。亜鉛saloph四量体 [2Zn4X4] はフラーレン包接において、C70をC60に対して100倍以上の強さで結合する顕著な選択性を示した。C60を包接した亜鉛saloph四量体のX線結晶構造解析の結果、C60を包接した [2Zn4(CH3OH)4] の環状骨格は正方形ではなく平行四辺形に歪んでおり、対面の2つの亜鉛saloph部位のみがC60とp-p相互作用していた (図4b) 。すなわち、剛直なベルト状構造が顕著なC70/C60選択性につながることが示された。 さらに、saloph-beltのマンガン錯体 [2Mn4X4n] について、酸化触媒としての検討を行った。類似した3つの二重結合を有するa-リノレン酸 (all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸) を基質として、オレフィンのエポキシ化反応の位置選択性について検討した。その結果、saloph-belt錯体 [2Mn4X4n] を触媒として用いると、単核Mn-saloph錯体を触媒とした場合と比較して、a-リノレン酸の末端 (15位) の二重結合に対する選択性が向上することが明らかとなった。今後、超分子構造と選択性の関連について検討し、詳細なメカニズムを解明する。[2] 図4. Saloph-belt大環状分子の多核金属錯体。(a) 双腕型両官能性単量体から生成される、salophユニットを壁面にもつベルト状環状4量体 [2M4X4n] (Xは交換可能な配位子)。R: n-ヘキシル。(b) 単結晶X線解析によって決定されたC60Ì[2Zn4(CH3OH)4] の構造。n-ヘキシルオキシ基、水素原子および溶媒分子は図から省略。楕円体モデル (30%表示) 。 3. 今後の展開 本研究では、金属配位サイトに囲まれた空間をもつ新規な大環状錯体として、bpytrisalenおよびsaloph-belt配位子を用いた多核錯体の合成とその構造解析に成功した。今後、多点での配位結合を利用した位置選択的触媒や、多数の金属からの協同的な配位結合による基質の活性化を利用した高活性触媒として有望な分子群となると期待される。 4. 参考文献 [1] T. Nakamura, Y. Kawashima, E. Nishibori, and T. Nabeshima, Inorg. Chem. 2019, 58, 7863-7872. [2] T. Nakamura, S. Tsukuda, and T. Nabeshima, J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 6462-6467. 5. 連絡先 〒305-8571 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学 数理物質系 化学域 超分子化学研究室 Tel: 029-853-8254 E-mail: nakamura@chem.tsukuba.ac.jp−81−

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