2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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2. 研究内容 EGFR-ECDのX線結晶構造 (PDB ID: 1IVO, 1NQL) を精査し,コンピュータ上において,二量化アームに非共有結合し得るペプチドを種々に設計し,実際に化学合成した。合成ペプチドについて,EGFレセプター陽性のヒト類表皮がん由来細胞A431を用いた生化学的評価試験を実施した。具体的には,EGFレセプター自己リン酸化阻害活性試験をウェスタンブロット法を用いて実施した。化学合成したペプチド1~4 (Table 1) は,最終濃度10 μMにおいて,アゴニストEGF刺激によるEGFレセプターの自己リン酸化をコントロールと比較して,半分程度にまで抑えるという結果が得られた。 次に,これらのペプチドが,実際に二量化アームに結合し得るか,について検証することとした。具体的には,表面プラズモン共鳴 (Surface Plasmon Resonance; SPR) を用いた分子間相互作用解析装置Biacoreを利用して,合成ペプチド1~4をSPRアナライトに、市販のEGFR-ECDおよび二量化アームペプチドをSPRリガンドとした相互作用解析を試みた。二量体化アームペプチドには、過去のSPR実験例6, 13を参考に,N末端にスペーサー分子を介してビオチンを化学修飾した分子(Biotin-PEG20-CYNPTTYQMCおよびBiotin-GGSGGS-CYNPTTYQMC) を調製した。 3. 今後の展開 本課題での研究結果をもとに,二量化アームに結合するペプチド性蛍光プローブおよびEGFR-ECDの「構造変化」や「状態の違い」を定性あるいは定量できる機能性ペプチドの創出を試みたい。EGF共存/非共存の条件下,候補化合物由来の蛍光強度変化が観測しやすい諸条件(細胞の種類・化合物の作用時間・温度など)を検討する必要がある。 EGFレセプターは,1984年にその全長の配列が決定されて以降様々な研究が行われてきたが,35年近く経つ現在でも盛んに取り上げられている研究対象である。特に,抗がん薬開発の標的として注目されることが多い。EGFレセプターを分子標的とする抗がん薬としては,すでに,チロシンキナーゼ阻害薬やリガンド競合型の抗体医薬などが開発されているが,EGFレセプター細胞外領域の「構造変化」そのものを標的とする薬剤は上市されていない。本研究にて,その構造変化をモニターできる二量化アーム捕捉型の蛍光プローブ(図3)を創製することができれば,「構造変化阻害」という新規作用機序のEGFレセプター阻害薬の創出に繋がる可能性があり,非常にインパクトのある研究成果になることが期待される。 4. 参考文献 1. Y. Yarden and J. Schlessinger, 1987. Biochemistry, 26, 1434-1451. 2. R. Jr. Roskoski, 2014. Pharmacol. Res., 79, 34-74. 3. F. J. Hendler and B. W. Ozanne, 1984. J. Clin. Invest., 74, 647-651. 4. D. Veale, et al.,1987. Br. J. Cancer, 55, 513-516. 5. T. Mizuguchi, et al., 2009. Bioorg. Med. Chem. Lett., 19(12), 3279-3282. 6. T. Mizuguchi, et al., 2012. Anal. Biochem., 420(2), 185-187. 7. T. Mizuguchi, et al., 2012. Bioorg. Med. Chem., 20(19), 5730-5737. 8. K. Toyama, et al., 2016. Bioorg. Med. Chem., 24, 3406-3412. 9. K. Kobayashi, et al., 2017. J. Pept. Sci., 23, 581-586. 10. A. W. Burgess, et al., 2003. Molecular Cell, 12, 541-552. 11. K. M. Ferguson, et al., 2003. Mol. Cell., 11, 507-517. 12. H. Ogiso, et al., 2002. Cell, 110, 775-787. 13. F. J. van der Wal, et al., 2016. J. Virol. Methods, 235, 15-20. Table 1. ペペププチチドド1~~4ののアアミミノノ酸酸配配列列 図図3. EGFレレセセププタターー活活性性化化機機構構 −3−

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