2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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生生体体治治療療にに向向けけたた人人工工線線維維芽芽細細胞胞増増殖殖因因子子のの開開発発 東京大学大学院工学系研究科 教授 山東 信介 1. 研究の目的と背景 細胞、組織は外界からのシグナルや環境変化に応答し、複雑生体系において協調的な機能を発揮する。様々な液性シグナル因子が存在するが、EGF, FGF, HGFなどの「細胞増殖因子(GF = Growth Factor)」は重要な役割を果たす分子である。細胞増殖因子は、細胞膜受容体のクラスタリングを誘起し、リン酸化、下流の細胞内シグナルカスケードを誘起する[1]。その結果として、分化、増殖、再生などの細胞フェノタイプを引き起こす。医学・生物学的に極めて重要な細胞機能を誘導するため、細胞増殖因子を用いた先進医療への注目が集まっている。特に、線維芽細胞増殖因子群(FGF)は、その受容体(FGFR)を活性化することで、皮膚組織再生、傷創治癒、虚血性疾患に対する血管新生促進など様々な治療応用が期待されている。 一方、細胞増殖因子を用いた医療応用に向けて、極めて重要な問題が存在する。1つは生産コストである。タンパク質である細胞増殖因子の生産には生物宿主を用いた発現系が必要とされ、医療コストが極めて高くなっている。またスケールメリットが小さく、大量生産によるコストダウンを期待しにくい。2つめは品質管理の難しさである。FGFに関しては実応用例が存在するものの、細胞増殖因子はタンパク質から形成されているため熱安定性が低く[2]、長期保存が難しく、また均一な品質を保証することが難しい。ロットごとの活性が大きく異なることも多く、iPS細胞の未分化/分化実験などの研究室レベルでの応用でも問題となる。 この問題に対する有効な方法は、化学合成可能で、熱・乾燥等に高い耐性を有する人工細胞増殖因子を開発することである。本研究では、完全化学合成可能な人工細胞増殖因子の開発を研究目的に設定し、分子化学の観点からこの課題に挑戦した。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) FGFRは1~4を含む様々なサブタイプを持つ。現在までに、FGFR1cに対して特異的に結合するDNAアプタマー(特定の構造を形成するDNA配列で、標的分子に特異的に結合する機能を持つ)を探索し、これを二量化することでFGFR1の内部リン酸化、活性化が引き起こせることを示している[3]。また、このDNAアプタマーからなる人工FGFが、iPS細胞の未分化維持に使用できることも実証している。一方、その未分化維持能は天然のbasic FGFに比べると低い。これは、開発した人工FGFが、FGFR1特異的に作用し、他のFGFRサブタイプに対して作用しないことが原因ではないかと考えられる。そこで本研究では、他のFGFRに対して作用する人工FGFの開発に取り組んだ。具体的には、FGFR2bに対して特異的に結合するDNAアプタマーを試験管内進化法を用いて探索し、この機能評価をすすめた。 多様なDNA配列の中からFGFR2bに結合するDNAアプタマー候補配列を複数種類得た。それらのうち、BIAcoreを用いたFGFR2bとの相互作用測定において、強い結合(小さい解離定数Kd)を示した配列を候補配列とした。最も強い結合を示すDNA配列はnMオーダーの強い結合を示した。これらの配列から結合に必要なコアドメインを特定するため、5’末端や3’末端を除去した短鎖化DNA配列を調整した。これらの短鎖化DNA配列を、同様にBIAcoreを用いたFGFR2bとの相互作用評価に供した。その結果、46塩基長の長さのDNAアプタマー配列を得ることに成功した(論文化前のため、具体的な配列は示していない)。このDNAアプタマー配列のFGFR2bに対する解離定数はKd = 約80nMであり、強く結合することが示された。 DNAアプタマー配列の構造に対する検討を進めた。DNAアプタマー配列中には連続したグアニン塩基が複数個確認され、4つのグアニンが平面上に相互作用して高次構造を形成するグアニン4重鎖構造を形成していることが予測された。グアニン4重鎖構造はDNAアプタマーによく存在する構造である。実際に、円偏光二色性−84−発表番号 42〔中間発表〕

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