2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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大大腸腸菌菌をを用用いいたたモモルルヒヒネネのの発発酵酵生生産産 石川県立大学生物資源工学研究所 講師 中川 明 1. 研究の目的と背景 モルヒネは植物の二次代謝産物であり、古代では幻覚剤、麻酔剤、鎮痛剤として利用されていた.現代でもその強い鎮痛作用から、ガン患者等の疼痛の緩和に処方されている.しかし、モルヒネは、植物からの抽出によって生産されているために比較的高価であり、罹患者のQOL向上には安価な生産系が望まれている. 植物の二次代謝産物は、その複雑な構造や光学異性体の問題から、化学合成法による生産が難しいことが多く、また、有機溶剤等を必要とするため、環境負荷も高い.そこで、昨今、植物の二次代謝産物を始めとする天然物の新たなる生産系として、微生物発酵生産法の研究が注目を集めている1). 本研究では、大腸菌を用いて安価な炭素源であるグルコースからモルヒネを発酵生産する系を構築する.また、グルコースからのモルヒネを生合成するには20以上の酵素遺伝子を導入する必要があるが(図1)、こうした多段反応系を大腸菌に導入する研究例はあまり多くないため、合成生物学的な知見を得ることができると考えられる. 2. 研究内容 2.1 (S)-レチクリンの増産 これまで、大腸菌では、(S)-レチクリン生産は三角フラスコレベルでおよそ120 μMが最高であった2).今回、モルヒネ生産系を構築するに当たり、まず、(S)-レチクリンの増産を試みた.以前の株ではチロシン生産系をプラスミドに導入していたが、ゲノムに導入することにより4.5倍もの増産が見られたことから(図2)、チロシン生産系ゲノム挿入株を親株として(S)-レチクリンの増産を試みた.その結果、156 μMとおよそ1.3倍の増産が観察された(図2).しかし、その株において、500 μM以上の(S)-THPが残存していたことから、メチル基転移反応が不十分であることが予想された.我々はメチル基転移のドナーとなるS-アデノシルメチオニン(SAM)が十分でないと考え、SAMの原料となるメチオニンを培地に添加したところ、大幅な増産が見られ、その量は490 μMに達し、4倍の増産に成功した(図2B). 2.2ベクター上における並び順と遺伝子の数 (S)-レチクリンからサルタリジンを生産する際にDRS-DRR-SalS-HemAの順でpET23aにクローニングし、(S)-レチクリンを基質にサルタリジンの生産を試みたが、その生産量は非常に低かった.そこで、遺伝子の並び順を変えてみたところ、HemA-SalS-DRS-DRRの順にクローニングした場合、20倍近い生産量向上が見られた(図3).このことはプラスミドにクローニングする際の遺伝子の並び順が重要であることを示している.この原因を探るべく、1番後ろの遺伝子を別のプラスミドに移して、(S)-レチクリンからサルタリジンを生産したところ、2倍程度の差は見られたものの、遺伝子の並び順はさほど影響してないように見えた(図3).以上のこチロシンドーパミン3,4-DHPAA(S)-THPドーパTHSPRMtrAPTPSPCDDHPRDDCSalRSalATサルタリジノール非酵素的AroGfbrTyrAfbrPpsATktA(R)-レチクリンSalSMAOグルコース6OMTCNMT4'OMTサルタリジンNCS(S)-レチクリンDRSDRRテバインサルタリジノール-7-酢酸T6ODMCORCODM非酵素的モルヒネコデインコデイノンネオピノン010020030040050060005101520253035チロシン(mM)(S)-レチクリン(μM)プラスミドゲノムゲノム+pET23aゲノム+pET23aΔpT7プラスミドベースのチロシン生産系チロシン生産系ゲノム株チロシン生産系ゲノム株+メチオニン図2チロシン生産ゲノム株の特性と(S)-レチクリンの増産図1モルヒネ生合成経路 図2チロシン生産ゲノム株の特性と(S)-レチクリンの増産 −86−発表番号 43〔中間発表〕

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