2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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オオーートトフファァジジーーをを駆駆動動すするるタタンンパパクク質質とと脂脂質質膜膜のの相相互互作作用用のの解解明明 東京工業大学生命理工学院 准教授 中戸川 仁 1. 研究の目的と背景 オートファジーは、細胞内の主要な分解機構であり、様々な細胞成分をオートファゴソームと呼ばれる二重膜胞内に隔離し、リソソーム(動物細胞の場合)あるいは液胞(植物や酵母細胞の場合)に輸送し、分解する。オートファジーは、飢餓応答、老化抑制、免疫など様々な役割を担っており、神経疾患、感染症、がんなど、種々の疾患との関係も明らかになりつつある。オートファジーが誘導されると、小さな扁平状の膜小胞(隔離膜)が細胞質で形成され、これが湾曲しつつ伸展し、球状となって閉じ、オートファゴソームが完成する。オートファゴソームの形成機構には、未だ多くの謎が残されている。特に、オートファゴソームを形成するための脂質膜の供給源は、積年の謎として多くの研究者から注目を集めてきた。私たちは、出芽酵母をモデル生物としてオートファジーの分子機構の研究を進めてきた。最近、私たちを含む国内外の複数の研究グループが、小胞体がオートファゴソーム形成における膜の供給源であることを示唆する結果を得た[1]。さらに私たちは、Atg2とAtg18からなるタンパク質複合体がオートファゴソーム前駆体膜を小胞体膜に連結させること、このようなAtg2-Atg18複合体の機能がオートファゴソーム膜の伸張に重要であることを明らかにした[2]。加えて、Atg2-Atg18複合体には膜から脂質分子を引き抜き、別の膜に輸送する活性があることも明らかになった[3]。これらの発見は、オートファゴソーム形成機構解明の突破口となると期待される。本研究では、これらの成果をさらに発展させるべく、Atg2-Atg18複合体と小胞体膜の相互作用の実体を明らかにすることを目的とした。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) Atg2-Atg18複合体は直接脂質膜に結合する能力を有しているが、小胞体膜と特異的に相互作用するために、小胞体膜上の特定のタンパク質分子を認識していると考えられる。しかしながら、細胞内でのAtg2-Atg18複合体と小胞体膜との相互作用は弱く、一過的であることが示唆された。そこで本研究では、近年開発されたAPEX法と呼ばれる手法を用いることにした。APEX法では、大豆由来の改変型アスコルビン酸ペルオキシダーゼAPEXを利用する。APEXを特定のタンパク質に融合して細胞に発現させ、ビオチンフェノール存在下で細胞を過酸化水素処理すると、APEXによってビオチンフェノールラジカルが生成される。ビオチンフェノールラジカルは速やかに消失するため、APEX融合タンパク質のごく近傍に存在するタンパク質、すなわち、APEXを融合したタンパク質と相互作用するタンパク質のみがビオチンフェノールで有意に修飾される。この方法を用いれば、一過的あるいは不安定な相互作用であっても、生きた細胞内での分子間相互作用をビオチン化という不可逆的な修飾により記録することできる。APEX、HAエピトープ配列及びGFPを付加したAtg2 (APEX-Atg2-HA-GFP)を発現する出芽酵母株を作製した。この株を培養し、スフェロプラスト化した後、ビオチンフェノールを加えると同時にラパマイシンで処理してオートファジーを誘導した。その後、培養液に過酸化水素を添加し、タンパク質のビオチン化を誘導した。細胞を破砕し、HRP標識ストレプトアビジンを用いたウエスタンブロッティングにより、ビオチン化タンパク質の検出を行った。しかし、APEX-Atg2-HA-GFPの発現に依存してビオチン化されるタンパク質は確認できなかった。 そこで、オートファゴソーム前駆体と小胞体に結合した状態で留まることが示唆されていたAtg210-12A変異体(Atg2のホモログ間で保存性の高い10番目から12番目のアミノ酸残基をアラニンに置換した変異体)を用いることにした。Atg210-12A-APEX-HA-GFPを発現する酵母細胞を作製し、実験をおこなった結果、Atg210-12A-APEX-HA-GFPの発現に依存してビオチン化されるタンパク質を確認することができた。しかし、APEX非依存的な内在性のビオチン化反応が多く、これらの反応を低減する必要があると考えた。そこで、培地に含まれるビオチンの量を減らしたり、添加するビオチンフェノールの濃度や反応時間を検討したりしたが、内在的なビオチン化反応を顕著に減少させる条件を見出すことはできなかった。 −88−発表番号 44〔中間発表〕

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