今回は、Atg2-Atg18複合体の相互作用相手として小胞体に局在化するタンパク質を想定しているため、細胞の破砕液を15,000 gで遠心分離し、小胞体が多く含まれる沈殿画分(P15)を可溶化してストレプトアビジン固定化ビーズを用いてビオチン化されたタンパク質を回収した(Elution)(図1)。この方法では、多くの内在性ビオチン化タンパク質を除くことができ、Atg210-12A-APEX-HA-GFP依存的なビオチン化タンパク質を確認することができた(オートファゴソーム前駆体と小胞体に結合した状態で留まらないAPEX-Atg210-12A- HA-GFPをネガティブコントロールとした)。回収したビオチン化タンパク質を質量分析に供して同定した。その結果、Atg210-12A-APEX-HA-GFP依存的にビオチン化される小胞体タンパク質として、Kar2やPdi1が同定された。しかし、これらは小胞体の内腔に存在するタンパク質であり、細胞質で働くAtg2に付加されたAPEXがビオチン化するとは考えられないため、真にAtg2と相互作用するタンパク質であるとは考え難いと結論した。 図1. APEX-Atg210-12A- HA-GFPあるいはAtg210-12A-APEX-HA-GFPを発現する酵母細胞においてビオチン化されるタンパク質をSDS-PAGEにより分離し、Streptavidin-HRPあるいはSYPRO Ruby染色により可視化した。実験の詳細については本文中の記載も参照されたい。 3. 今後の展開 本研究助成期間内には、Atg2-Atg18複合体と相互作用する小胞体因子の同定には至らなかった。引き続き、ビオチン化の条件やサンプル調製の方法を検討していくと共に、Atg2-Atg18複合体がオートファゴソーム形成部位と小胞体との接触部位に蓄積するAtg210-12A変異体以外の変異体も用いるなどして、解析を進めていく。得られた候補因子については、Atg2との相互作用について解析を進めると共に、蛍光タンパク質を融合してオートファジー誘導時の細胞内局在(オートファゴソーム前駆体膜、伸張中のオートファゴソーム膜、小胞体との位置関係など)を調べる。さらに、各候補因子の遺伝子ノックアウト/ノックダウン細胞を構築し、オートファジーにおける重要性を調べ、オートファジーに欠損が見られた場合には、欠損が生じるステップ(膜の伸張が停止するのか、Atg2-Atg18複合体の小胞体への結合に異常が生じるのかなど)を明らかにする。このようにして、Atg2-Atg18複合体と小胞体膜との相互作用のメカニズムを解明し、オートファゴソーム形成における脂質供給機構の全容を明らかにしていきたいと考えている。 4. 参考文献 [1] H. Nakatogawa, 2020. Mechanisms governing autophagosome biogenesis. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. published online 05 May 2020. [2] T. Kotani, H. Kirisako, M. Koizumi, Y. Ohsumi, H. Nakatogawa, 2018. The Atg2-Atg18 complex tethers preautophagosomal membranes to the endoplasmic reticulum for autophagosome formation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 115, 10363-10368. [3] T. Osawa, T. Kotani, T. Kawaoka, E. Hirata, K. Suzuki, H. Nakatogawa, Y. Ohsumi, N.N. Noda, 2019. Atg2 mediates direct lipid transfer between membranes for autophagosome formation. Nat. Struct. Mol. Biol. 26, 281-288. 5. 連絡先 〒226-8501 神奈川県横浜市緑区長津田町4259 B-20 東京工業大学 生命理工学院 中戸川 仁 TEL: 045-924-5735 FAX: 045-924-5743 E-mail: hnakatogawa@bio.titech.ac.jp −89−
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