2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ガガララススのの普普遍遍的的なな振振動動特特性性・・熱熱物物性性にに関関すするる理理論論的的研研究究:: 分分子子シシミミュュレレーーシショョンンをを用用いいててガガララススのの二二準準位位系系をを解解明明すするる 東京大学大学院総合文化研究科 助教 水野 英如 1. 研究の目的と背景 粒子(分子)が凝縮した固体状態には,大きく分けて2つ存在する.規則性・周期性を有する結晶と不規則的・非周期的なガラスである.結晶の熱物性に関しては,デバイ理論,フォノン気体論が確立されている.結晶では,その周期性から分子振動がフォノンとして記述できる.デバイ理論,フォノン気体論はフォノン振動に基づき,結晶の比熱,熱伝導率が温度の3乗で増加するという実験の観測結果を説明する. これに対して,ガラスの比熱は低温度域(1[K]以下)で温度の線形で増加し,また熱伝導率は温度の2乗で増加するという結晶とは全く異なる振る舞いを示す[1].重要な点は多くのガラスがその構成粒子の個性に依らず,同じ温度依存性を示すことである.このようなガラスの普遍的かつ特異的な熱物性を説明するために,多数の理論が提案されてきた. その中で特に有力な理論として,二準位系理論がアンダーソンらによって1972年に提案された[2].この理論は,ガラスにはフォノンに加えて,様々なエネルギー差をもった二準位系が存在することを仮定し,ガラスの特異的な熱物性を説明する.二準位系とはエネルギー地形が二つの準位をもつ非調和的な分子振動を指す(図1).しかしながら理論は現象論であり,その妥当性は未だに分かっていない.それどころか,理論の提案から約50年経った現在も,ガラスに二準位系が存在するかどうかさえ明らかになっていない状況である. 一方で近年,我々は連続体極限という低周波数域において,ガラスにはフォノンに加えて,局在振動モードの存在を明らかにした[3,4].連続体極限の分子振動はまさに1[K] 以下の温度域の熱物性を決めるものであり,またフォノンとは異なる分子振動が存在するという点において,二準位系理論と一貫している.このことから,我々は局在振動モードこそが二準位系を生み出す正体ではないかという着想を得た. そこで本研究では分子シミュレーションを用いて,局在振動モードを含めたガラスの振動モードを励起したときのエネルギー地形を調べる.そして,そのエネルギ地形が図1に示すように二つ以上の準位をもつ場合は,準位間のエネルギーバリアを調べる.これによって粒子の配置換えを伴う非調和性を定量的に明らかにし,ガラスの二準位系の正体に迫る. 2. 研究内容 本研究は物質をミクロにモデル化する分子シミュレーションによって研究を進めた.分子間相互作用として,レナード・ジョーンズ型のポテンシャルを用いた. これまでの研究[3,4]において,我々はガラスの全振動モードのデータ(固有周波数,固有振動ベクトル)を得た.特に低周波数域においてはフォノン振動と局在振動のデータを得ている.本研究では各振動モードを励起させて、振動モードの非調和性を調べた.具体的には,粒子を固有振動ベクトルの方向に“A”だけ変位させることで,その振動モードを励起させる(図1).そして励起させた後に,エネルギー最小化を実施する.振動モードの励起が粒子の配置換えを引き起こす場合は,系は別の状態へと遷移する(図1). 図2はAを大きくしていったときの,エネルギー最小化後の配置の初期配置からのずれ(初期配置からの距離,およびポテンシャルエネルギーの差)をプロットする.Aが小さいときは,系は初期状態に戻る,すなわち粒子の配置換えは起こらない.しかしながら,Aがある値Acを超えると,系が初期配置から遷移することが分かる.すなわち,振動モードがAc以上励起すると粒子の配置換えが発生する.遷移が発生するときのAcが小さい程,その振動モードの非調和性は強いことを示し,Acによって非調和性の程度を計測できる. 図3は,各振動モードについてAcの値を固有振動数の関数としてプロットする.低い周波数の振動モード程,Acが小さく,したがって非調和性が強いことが分かる.低周波数域にはフォノン振動と局在振動が存在するが,驚くべきことにフォノン振動と局在振動で非調和性の程度に差はなく,どちらも同程度の非調和性を示す.すなわち,フォノン振動,局 在振動ともに配置換えを誘起することが明らかになった. 図1 振動モードのエネルギー地形. −92−発表番号 46

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