2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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本研究を始める前,我々は局在振動がガラスの二準位系と関係しているおり,局在振動のみが粒子の配置換えを誘発させると予想していた.ところが,我々の予想に反して,フォノン振動も粒子の配置換えを引き起こすことが分かった.この結果は,ガラスには配置換えが生じやすい領域が存在し,そのような領域が局在振動であろうとフォノン振動であろうと刺激されると,粒子の配置換えが生じることを示す. 以上の研究成果は,文献[5]にまとめている.また,シミュレーションで明らかになった配置換えを伴う非調和性を,有効媒質理論によって理論的に記述する試みを行なった[6]. 上記の研究以外にも,実際にガラスに熱を与えて振動モード群を励起させたときに,粒子の配置換えを伴う非調和性がどのように生じるかを明らかにした[7].さらに,粒子の配置換えがガラスの固体物性にどのように影響するかに着目し、特に音波特性に与える影響を調べた[8,9].本研究によって明らかになった,粒子の配置換えを伴う非調和振動は,ガラスの物性に重要な役割を担うものであり,まさにアンダーソンの二準位系理論で想定される二準位系の正体と考える. 3. 今後の展開 本研究は,ガラスには粒子の配置換えを伴う非調和性が発生することを明らかにし,ガラスの二準位系の正体に迫った.我々の最終的な目標は,低温熱物性を理解することである.低温度域では量子力学的な効果が効いてくるため,粒子の配置換えは本研究でみられた熱的な励起によるものではなく,量子力学的なトンネル効果によって生じるものと期待する.そして,量子力学的な遷移こそが低温度域で生じるガラスの二準位系の正体と考える.したがって,量子力学的に発生する粒子の配置換えを理解することが,次の課題である. さらに,本研究で実施した分子シミュレーションでは,分子間相互作用をレナード・ジョーンズ型のポテンシャルを用 いてモデル化した.これは,アルゴンなどの単原子分子から成るガラスを想定する.しかしながら,現実のガラスはより複雑な分子から構成されており,また共有結合性ガラス、金属性ガラス、高分子ガラスなどの多様なガラスが存在する.単純なガラスで構築した理論的理解を,このような多様なガラスへと展開することは,今後の重要な課題である. 4. 参考文献 [1] R. C. Zeller and R. O. Pohl, Phys. Rev. B 4, 2029 (1971). [2] P. W. Anderson, B. I. Halperin, and C. M. Varma, Philos. Mag. 25, 1 (1972). [3] H. Mizuno, H. Shiba, and A. Ikeda, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 114, E9767 (2017). [4] M. Shimada, H. Mizuno, and A. Ikeda, Phys. Rev. E 97, 022609 (2018). [5] H. Mizuno, M. Shimada, and A. Ikeda, Phys. Rev. Research 2, 013215 (2020). [6] M. Shimada, H. Mizuno, and A. Ikeda, arXiv:1907.06851.(論文投稿中) [7] H. Mizuno, H. Tong, A. Ikeda, and S. Mossa.(論文執筆中) [8] H. Mizuno and S. Mossa, Condensed Matter Physics 22, 43604 (2019). [9] H. Mizuno, G. Ruocco, and S. Mossa, arXiv:1905.10235.(論文投稿中) 5. 連絡先 住所:〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1 Tel:03-5454-4376 E-mail:hideyuki.mizuno@phys.c.u-tokyo.ac.jp 図2 振動モード励起後の初期配置からのずれ. 図3 各振動モードの非調和性の程度Ac. −93−

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