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〜旭硝子財団 地球環境マガジン〜

2019年受賞者エリック・ランバン教授に聞く、地球の持続可能性。
「森林破壊に加担しない」意志と行動が、未来をつくる

2019年にブループラネット賞を受賞した、環境科学者・地理学者のエリック・ランバン教授。現在もルーヴァン・カトリック大学(ベルギー)とスタンフォード大学(アメリカ)で教鞭を取りながら、自身の見出した土地利用の研究を続けています。人間は地表をどのように利用してきて、その利用の仕方はどう変化してきたのかーー地理学的視点から始まったランバン教授の研究は、土地や資源利用の持続可能性を探る研究へと発展していきました。これまでの研究成果を伺うと同時に、持続可能な社会のために今私たちはどう行動していくべきなのか、日本の読者に向けてメッセージをいただきました。(取材日:2020年11月16日)

「地表」・「衛星の観測データ」・「人間の物語」を結ぶ。
旅や登山の経験が、発想につながった

エリック・ランバン教授©dyod.be
エリック・ランバン教授©dyod.be

エリック・ランバン教授は、自然科学と社会科学の境界分野で持続可能な土地利用の方法を追求し続けてきた環境学者であり、地理学者です。教授は、1980年代半ば、未だ活用方法の確立していなかった衛星による観測データを、自らバイクを走らせ調査した現地の人間行動と掛け合わせる方法を発案しました。そして、世界で土地がどのように利用されてきたのか、その歴史を紐解き、人間と自然環境がお互いにどのように影響しあってきたのかを明らかにしました。

「私が博士課程の学生だった1985年当時は、ちょうど民間で衛星を利用した調査が始まったタイミングでした。当時衛星データは土壌や水の分析といった物理的な調査には使われていましたが、私は、人類がその土地にどう影響してきたかということに興味を持ちました。そこで、サハラ砂漠の南縁部、砂漠化の深刻なサヘル地域へ行き、モーターバイクを購入しました。村を訪れ人々に話を聞いては走って、という調査を3〜4カ月かけて行ったのです。広範囲を走り、衛星からのデータと、土地とその地に住む人たちのストーリーを結びつけていきました」とランバン教授は当時を振り返ります。

人間による土地利用という研究テーマと、衛星データとフィールドワークを掛け合わせるアイディア。ランバン教授独自の発想は、一体どこから生まれてきたのでしょうか。

土地利用の変化は、グローバルな問題。
科学者のコミュニティを作り一つの科学分野を確立

2015年、カメルーンでの調査にて
2015年、カメルーンでの調査にて

ランバン教授の功績として知られるものとして、LUCC(Land-Use and Land-Cover Change)、土地利用・被覆変化研究計画という国際プロジェクトがあります。ランバン教授は1999年から7年間、このプロジェクトの議長を務め、土地利用の研究の世界的進展に大きく貢献しました。

「地球上の土地利用の変化は、明確に全世界的な問題でしたが、当時は各国の科学者がバラバラに研究を進めていました。同じ研究課題について、同じ理論を用いて研究を行なっていたのにも関わらず、です。各地の研究を一体化させてまとめられないか、そして一層高いレベルで理解できないか?きっとできるはずだと思いました」とランバン教授はプロジェクトに関わった動機を話します。

特筆すべきLUCCの功績として、まず、土地劣化や森林破壊を世界共通の方法で測れるようになったことが挙げられます。計測の基盤が整ったことで、土地劣化・森林破壊が局所的なものではなく世界で急速に拡大していて、気候変動や生物多様性に大きく影響を与えていることがはっきりと示されることになりました。土地劣化の多様な要因が明らかになったり、将来を予測するためのモデリング用の枠組みが作られたりと、LUCCによる画期的な発見と成果は多岐に及んでいます。

「最も重要なことは、土地利用に関する科学者たちのコミュニティができあがったことです。過去において、土地利用はひとつの研究領域とも、重要な研究領域とも思われていませんでしたが、今ではランドシステムサイエンスという科学分野になっており、日々研究が進められています。毎週毎月毎年、会合も開かれていて、世界中から何千という科学者たちが参加しているんですよ」(ランバン教授)

グローバル経済の影響を強く受ける森林破壊。
すべての当事者に向けた複数の施策が有効

ランバン教授は、現地の住民による土地利用の意思決定はどんなプロセスでなされるのかという点に興味を抱き、調査を行なってきました。その理解を深めるうちに、その意思決定に影響するにはどうすればよいか、持続可能な土地利用に導く方法を探り始めます。

「私はまず、国の政策によって土地利用の方向性を決められないかと考えました。しかし、世界経済がグローバル化している今、土地利用というのは国境を超えた文脈を持っているんです。

ひとつ、例を挙げましょう。熱帯雨林の森林破壊の40%は、国際的に取引されているたった4つの原料によって引き起こされています。パーム油、大豆、牛肉、そして材木の4つです。そうした原料を求めているのは熱帯雨林を有する国の人々ではなく、グローバルな企業であり外国の消費者たちです。市場原理に従って民間企業が開発を行なっているため、熱帯雨林を有する国々による破壊の抑止力は非常に限られています。現在私が研究しているのは、国レベルでの公共政策と、民間企業による持続的なコミットメントの関係です。企業による持続的なコミットメントとは、自分たちは森林破壊をしない、環境汚染をしない原料だけを扱うということを自ら約束するということです。このような政策やコミットメントがどれだけ森林破壊に影響するかということを調べています」(ランバン教授)

教授が現在取り組んでいるのが、「課題解決の拡大化(up-scaling solutions)」という研究です。森林破壊を止めるために有効な政策や解決策というものは、すでに小さな規模で、ローカルには成功しており、本当の課題はその規模を拡大することにある、と教授は言います。

「産業の1〜2%ではなく、産業全体に影響を及ぼす政策やシステムのあり方を見つけなければいけません。現状の調査で示唆されているのは、政府、企業、市民、それらの当事者みんなの利益を調整し、利害を一致させなければいけないということです。当事者の立場によってモチベーションや行動は異なるので、一律に扱うのは得策ではありません。さまざまな施策の組み合わせが有効であることがわかってきました」と教授。

同じ地域、同じコミュニティ内であっても、進歩的な人はインセンティブによって前に進み、また別の人には、情報共有・透明化が有効な手段に。より行動の遅い人たちには、命令をして従わせるという手法が適しています。これらの複数の方策を組み合わせることで、それぞれが補完的に作用してさまざまな当事者が動き、課題解決の規模を拡大できることがわかってきたのだといいます。

再森林化のうち、50%が「森林破壊の輸出」により実現。
国境を超えて、消費側の改革が求められている

ブータンの衛星画像
ブータンの衛星画像

ランバン教授と同僚のチームは数年前、最後のチンパンジーが生息するウガンダの保護地区で、ある実験を行いました。ランダムに選んだ90の村に、森林を保護すれば1haあたり年間25ドルの支払いを行い、別の90の村には支払いを行わないという比較実験です。すると、支払いをした村は、しない村に比べ森林破壊が50%以上減少しました。インセンティブの有効性を示す貴重な調査となりましたが、実験完了後村への支払いをやめたところ、森林破壊は元の水準に戻ってしまいました。有効な施策があっても、実際にその施策を続ける団体と資金がなければ、継続もスケールアップもできないという厳しい現実があります。

こうした事例を聞くと、持続可能な土地利用を広げていくことは非常に困難なことのように思えます。何か前向きな要素はないか、ランバン教授に尋ねると、「良いニュースと悪いニュースがあります」と教授。 「良いニュースとしては、ベトナム、コスタリカやブータンなど、再森林化が進んでいる国や地域が確かにあるということ。悪いニュースは、私たちの研究で初めて明らかになったことですが、再森林化の一部が他の国々の犠牲の上に成り立っていたとわかったことです。自分の国では森林伐採を規制していても、森林破壊によって得られた木材や林産物を他国から輸入している場合があったのです。つまり、"森林破壊の輸出"です。

調べてみると、全体平均として、再森林化の50%が輸入材や輸入林産物によって実現したことがわかりました。これは、森林破壊を実際に行うのは供給者ですが、消費側にも目を向ける必要があることを示しています。消費量が同じままで自国の森林伐採を規制すれば、他の国からの輸入が必要になるからです」。これらの研究によって、森林認証などエコラベルの有用性が認知されることになり、世界中でその導入が進むことになりました。

日本に住む私たちは、土地利用の問題に対して鈍感になりがちです。しかし、他国の森林破壊によって生まれた木材やその加工品は、日本国内でも当たり前のように流通しています。消費者サイドにいる私たちの、エコロジカルフットプリント(自然環境への負荷)の少ない商品を選ぶという意識改革が必要です。

一方で、ランバン教授は、「小売業」に対する取り組みが最重要だといいます。持続可能な生産による商品しか扱わない。小売企業がそう宣言して動けば、消費者は自ずと持続可能な商品を消費することになるからです。確かに、日本の大手小売企業のスーパーマーケットやショッピングモールでも、環境配慮型商品やフェアトレード商品を目にする機会が増えてきました。教授は、大手小売企業は確かに持続可能性に深く関わっていると前置きしつつ、「現状では企業の行動は満足のいくものとは言えません。しかし私たちは小売企業が持続可能な供給を推進していくことを信じ、そうした良い行動を支持していくしかありません」と語ります。

自分ごととして環境問題を捉えにくい日本。
日本の伝統に持続可能性へのヒントがある

ランバン教授は、課題解決のアップスケールを研究テーマとして継続しながらも、今年から新たな仕事に取り掛かります。2021年5月より、欧州委員会(European Commission)のチーフサイエンティックアドバイザーのひとりに就任することが決まったのです。 「2019年にブループラネット賞を受賞したことで、私の発言が多くの人に影響力のあるものになったことを感じていました。受賞は、ECのアドバイザーに選出されたことにも直接的に影響しています。この仕事は、科学と政策の間に立って双方を接続し、科学的な証拠を持って政策に働きかけていくという、私にとって新しい仕事でありチャレンジなんです」と、顔を輝かせながら語ります。

ヨーロッパと比べ、日本は環境政策や環境への企業の取り組みが進んでいるとは言いがたい部分があります。しかしランバン教授は、日本においても、課題解決に向けて人々の気持ちを動かすことはできるはずだと力強いメッセージをくださいました。

「日本には、自然との調和を重んじる伝統があります。もともと持っている伝統的な精神を土台に、持続可能な暮らしを積み上げていく。そうした視点で考えたり、伝えたりすることで、多くの人の心を動かすことができるかもしれません。もうひとつ、持続可能性の問題は、家族の問題なのだと気づいてもらうことも有効だと思います。この問題は、20歳以下の若者や子どもたちにとっての問題なのです。今目の前にいる自分の子ども、親族の子どもたちにつながることが実感できれば、人々の行動は変わっていくはずです」

ますます研究を進化させ、科学と政策の架け橋としても活躍の期待されるランバン教授。今後も、私たちに多くのことを示してくれることでしょう。SDGsの期限まで、あと9年。「希望を持ってビジョンを描いてください。そして、強い意志があれば変えられます」――教授の力強い言葉を灯火に、持続可能な未来へ。今を生きる全員の力を結集させることが求められています。

Profile

エリック・ランバン教授(ベルギー)
スタンフォード大学教授、ルーヴァン・カトリック大学教授

世界的規模での土地利用の変化、その生態系への影響や土地利用政策の有効性を衛星リモートセンシング技術と独自の時系列解析手法を用いて調査。社会経済データと結び付けて経済活動との関係も明らかにし、公共機関や民間企業における森林保護のための土地利用方針に大きな影響を与え、森林認証制度の活用やグリーン購入/調達の推進へ科学的根拠を提供した。グローバル規模での経済活動の持続可能性を改善するため、人々の行動と土地利用の統治管理の促進に大きく貢献。2019年ブループラネット賞を受賞。

エリック・ランバン教授紹介動画

2019年ブループラネット賞表彰式典で上映したランバン教授の紹介映像です。

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