2024年「若い世代のための地球環境問題ワークショップ等」で採択した、豊島岡女子学園中学校・高等学校(東京都豊島区)の企画「課題探究の高度化へ向けての支援」について、今年度も引き続き生徒の皆さんの探究活動を支援しています。
本企画では、生徒が自ら課題を見つけ、実験や考察を重ねながら、その成果を発表できる形にまとめていきます。当財団は、本企画の支援にあたり、啓発支援選考委員とAGC株式会社の研究員に専門家として支援を依頼し、生徒の皆さんが助言を受けられる機会を設けています。
また、生徒の皆さんとAGC研究員をつなぐSlackを設け、実験結果や制作中のポスターを共有したり、研究を進める中で生じた疑問を相談したりできるよう、探究活動を継続的に支援しています。
生徒からは、夏休み中に行った実験の結果やグラフ、制作中のポスターなどが共有され、結果の解釈や今後の実験方法について質問が寄せられました。AGC研究員は、それぞれの研究内容に応じて、実験条件の設定や評価方法、結果を考察する際の視点などを助言しています。生徒が研究を進める中で生じた疑問を専門家に相談し、次の実験や発表内容の改善につなげられるよう、継続的にサポートしています。
「Academic Day 1st」で7チームが研究成果を発表
「Academic Day 1st」でのポスター発表の様子
9月12日、豊島岡女子学園中学校・高等学校が主催する「Academic Day 1st」が開催されました。
当財団の支援を受けている生徒の皆さんも、ポスター発表や口頭発表を通じて、これまでの実験結果や考察、今後の研究方針を発表しました。今年度は、昨年度から研究を継続している2チームを含む、計7チームが参加しました。
当日は、啓発支援選考委員長の江守正多氏(東京大学未来ビジョン研究センター教授)、選考委員の橋本禅氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)と町田智子氏(公益財団法人文字・活字文化推進機構専務理事)、AGC株式会社の研究員(鈴木翔子さん、星島千穂さん)、そして当財団のメンバーも会場に足を運び、ポスターを囲んで、生徒たちの研究に対してコメントやアドバイスを行いました。
各チームへの主なコメント
選考委員・AGC研究員に研究内容を説明する生徒の皆さん
・ルミノール反応によるマイクロプラスチックの検定は可能か(高1)
マイクロプラスチックに付着した金属イオンをルミノール反応によって検出し、環境問題を可視化しようとする研究です。実際の海水には植物などさまざまな物質が含まれることに気づき、その影響の検証も実施していました。
専門家からは、不純物の少ない人工海水などを用いて、まず金属イオン濃度と発光の関係を確認することが提案されました。「どのような結果が得られれば何を確認できるのか」を事前に整理し、ほかの物質の影響を切り分けながら検証することが、今後の研究を進めるうえで重要との助言がありました。
・環境にやさしいエネルギー ~ペルチェ素子を用いた発電~(高1)
温度差を利用した発電の実用化を目指した研究です。繰り返し実験を行いながら研究を進めていました。また、ボートの接水面と内面との温度差を利用した発電など、将来の活用方法のアイデアにも触れていました。
専門家からは、想定する利用場面を具体化したうえで、必要となる温度差やペルチェ素子の大きさ、得られる発電量を概算すると、現在の実験結果との差や今後検証すべき課題が明確になるとの助言がありました。また、発電量だけでなく、温度差をどのように維持するかも重要な検討事項として挙げられました。
・体に優しいネイルを作る(高1)
メイクに関心を持つ子どもに向けて、安全性と使いやすさを両立したネイルを作ろうとする、身近な需要を捉えた研究です。乾燥時間について具体的な目安を設定するなど、一つひとつ課題を整理しながら検証を進めていました。
専門家からは、市販のネイルに含まれる成分とその役割を改めて確認し、代替材料の選定に生かすことが提案されました。また、乾燥時間、落としやすさ、持続性、安全性のすべてを同時に高めることは難しいため、どの性能を優先するかを整理することが、今後の研究方針を定めるうえで重要との助言がありました。
・自然の力で水を綺麗にするためには(高1)
安全な水を利用できない地域の人々の存在を背景に、モリンガや炭など身近な材料を用いて水を浄化しようとする研究です。関連する市場の状況や測定方法を調査し、それぞれの実験で何を測定しているのかが説明されていました。
専門家からは、モリンガを加えたときに水中でどのような変化が起きているのかを確認することや、モリンガそのものの安全性を調べることが提案されました。また、飲料水と生活用水を分けて考えること、浄化の効果だけでなく処理にかかる時間も評価することなど、実用化を考えるうえでの具体的な助言が寄せられました。
・果物の皮を用いた最も効果的な化粧水は何か(高2)
昨年度から継続している、天然由来の保湿剤の作成に関する研究です。前回の発表で指摘された課題に取り組みながら、複数の果皮を組み合わせた場合の保湿力と持続性に関する実験結果をグラフに示し、果皮の効果を説明していました。
専門家からは、サンプル数を増やし、平均値だけでなくデータのばらつきも示すことで、実験の精度をさらに高めることが提案されました。また、保湿効果を評価する際には、水分と脂分の比率に加え、水分量がどの程度増加し、どのくらい維持されたかを見ることで、効果をより明確に示せるとの助言がありました。
・セルロースを用いたプラスチック代替品の作製(高2)
こちらも昨年度から継続しているセルロースナノファーバーを作製する研究です。前回の課題や反省を踏まえて実験条件を設定し、先行研究を再現するだけでなく、どの操作や条件が結果に影響しているのかを説明していました。
専門家からは、先行研究で各材料が加えられている理由を確認したうえで、実験結果を比較することが提案されました。また、外観の変化だけでなく、生成物の大きさや固形分濃度、粘度、強度、耐久性などを測定し、定量的な分析につなげることが今後の課題として挙げられました。
・ラトソルの土壌改善(高2)
養分が少なく農業に適さないとされるラトソルを、米のとぎ汁や燻炭を使って改善しようとする研究です。新たに取り組み始めたテーマですが、ラトソルの改善すべき点を整理し、さまざまな方法を調べたうえで実験を行っていました。
専門家からは、養分濃度が測定する場所や深さによって変化していないかを確認し、まず結果を適切に解釈できる実験条件を整えることが提案されました。また、同じ条件で実験を繰り返すことや、ラトソルが分布する地域の食習慣や植生を踏まえて、現地で利用できる材料や方法を検討することも重要との助言がありました。
各チームへのコメントでは、研究テーマの意義や生徒の着眼点を評価する声とともに、「何を確認するための実験なのか」「どのような結果を予想しているのか」をあらかじめ整理することの重要性が共通して指摘されました。
また、実験条件をそろえて比較すること、結果を定量的に評価すること、ポスター上で実験の目的・結果・考察のつながりを分かりやすく示すことなど、今後の探究や発表の改善につながる具体的な助言も寄せられました。
今回の発表と専門家からの助言を踏まえ、生徒の皆さんはさらに実験や考察を重ね、研究内容を磨いていきます。
次回は、2027年2月に予定されている「Academic Day Final」です。それぞれの探究がどのように深まり、今回明らかになった課題にどのように向き合っていくのでしょうか。
旭硝子財団は、これからも生徒の皆さんが専門家と意見を交わしながら、自らの問いを深めていく探究活動を支援していきます。
「ラトソルの土壌改善」のポスターを囲む生徒と選考委員・AGC研究員
今回参加した専門家
・江守正多(東京大学未来ビジョン研究センター教授)
・橋本禅(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
・町田智子(公益財団法人文字・活字文化推進機構専務理事)
・鈴⽊翔⼦(AGC株式会社経営企画本部サステナビリティ推進部シニアマネージャー 博士(理学))
・星島千穂(AGC株式会社技術本部先端基盤研究所共通基盤技術部ソフトサイエンスチーム)
