電力部門からの二酸化炭素排出
2023年、世界の発電部門からの二酸化炭素(CO₂)排出量は約13.5ギガトン(Gt)に達し※1、世界全体のCO₂ 総排出量(約37.5Gt)の約 36 % を占めました※2。世界の総発電量のうち、石炭火力は約35%、天然ガスが約22%、石油などの非再生可能エネルギーが2.6%を占めており、発電部門は依然として6割以上を化石燃料に依存しているのが実態です※1。中でも石炭火力は発電部門における最大のCO2排出源であると同時に、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)といった大気汚染物質を大量に排出し、気候変動と公衆衛生の両面で深刻な影響を及ぼしています。さらに、化石燃料の価格高騰は、エネルギー安全保障への懸念や電気料金の上昇といったリスクも顕在化させました。こうした課題を解決するには、化石燃料への依存から脱却し、クリーンで安定したエネルギー源への転換が不可欠です。
問題解決に向けた取り組み:太陽光発電のコスト低減
太陽光発電(Photovoltaics:PV)は、クリーンエネルギーの有力な選択肢の一つです。太陽光を直接電気に変換するこの方式は、運転時に二酸化炭素を排出しません。よく知られた技術ですが、近年この技術を取り巻く環境は大きな変化を見せています。国際エネルギー機関(IEA)によると、2023 年に新たに導入された再生可能エネルギー設備容量のうち約450 GWが太陽光発電で、再エネ全体のおよそ4分の3(約75%)を占めました※3。また、太陽光パネル(PV モジュール)の価格は2010年以降大幅に下落しており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書によれば、2010〜2019年の間に太陽光発電の1キロワットあたりの発電コストは、少なくとも85%削減されています※4。2022年の推計では、新設された太陽光発電や陸上風力発電の発電コスト(初期費用を含む)が、石炭火力やガス火力よりも低くなる割合が96%に達しており※5、コスト面で再エネが優位に立ちつつあります。こうした急速な導入拡大により、2023年には世界の電力に占める再生可能エネルギー比率が約30 %を突破し※1、その主要な牽引役の一つが太陽光発電でした。太陽光発電は、発電時に大気汚染物質を排出しないだけでなく、設置場所が柔軟で拡張性が高いという特長があります。住宅の屋根や工場の屋上、農地の上空、さらには貯水池やダム湖の水面を利用した浮体式PVなど、多様なロケーションで導入が進んでいます。
【太陽光発電の普及を加速する4つの鍵】
以下では、太陽光発電のさらなる普及とコスト低減を後押しする4つの重要な要素を紹介します。
(1) 技術革新による高効率化
太陽光パネルの変換効率は、2010年代前半には約15%台にとどまっていましたが、次世代セル技術の導入により、2024年には23%台後半~24%台へと大きく向上しました※6。これにより、同じ設置面積で得られる発電量が大幅に増加し、システム全体としての発電コストが下がっています。あわせて、製造工程でも改良が進みました。たとえば、シリコンの板(ウェハー)をより薄くカットできる新しい切断技術や、パネル内部の電気を集めるために使う高価な銀の使用量を減らす工夫などにより、パネルの製造コストが下がり、1枚あたりの価格も安くなっています。また、ペロブスカイト型やタンデム型など、シリコン以外の材料を使った「非シリコン系」や、シリコンと他の材料を組み合わせた「ハイブリッド型」などの、さらに高効率な太陽光発電技術の開発も進められています。
(2) 大規模化・送電インフラの整備
インド・ラジャスタン州のバドラメガソーラーパークや中国青海省の太陽光+蓄電クラスターでは、数GWの大規模導入によりBOS(バランスオブシステム:太陽光パネル以外の周辺機器)コストを大幅に削減しています。また、発電拠点と都市部の需要地を結ぶ専用線を先行整備することで再生可能エネルギーを安価に供給するモデルが確立されつつあります。
(3) 系統連系の柔軟性の向上
効率向上に伴い、VRE(変動性再生可能エネルギー)の大量導入が進むなか、電力の系統連系の柔軟性を高めることが重要視されています。バッテリーなどの電力貯蔵システムは、風力発電や太陽光PVの統合を可能にする手段として注目されており、ブラジルでは大規模な蓄電システムが導入されています※1。
(4) 使用済みパネルのリサイクル
EUではWEEE指令により太陽光パネルのリサイクルが義務付けられ、ガラスやアルミフレーム、シリコンなどのリサイクル技術はすでに実用化され、商業規模での回収・再利用が進められています。加えて、シリコンや銀などの高付加価値材料のリサイクルについても商業化が進展中です。日本でも2023年に「太陽光パネルリサイクル促進法(仮称)」の検討が開始されており、循環型社会の構築に向けた対応が進んでいます※7。
※1 IEA Electricity 2024より
https://www.iea.org/reports/electricity-2024
※2 IEA CO2 Emissions in 2023より
https://www.iea.org/reports/co2-emissions-in-2023
※3 IEA Renewables 2024より
https://www.iea.org/reports/renewables-2024
※4 IPCC AR6 Synthesis Report (2023) より
https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/
※5 IEA Renewables 2023より
https://www.iea.org/reports/renewables-2023
※6 NREL Spring 2024 Solar Industry Updateより
https://research-hub.nrel.gov/en/publications/spring-2024-solar-industry-update
※7 環境省 大臣談話より
https://www.env.go.jp/annai/kaiken/kaiken_00308.html