紛争鉱物問題【調達規制・認証制度、エシカル消費(倫理的消費)】

持続可能な発展

紛争鉱物とは

 紛争鉱物とは、鉱物の採掘や取引によって得られる利益が武装勢力や軍など紛争当事者の資金源となり、紛争の継続を助長する鉱物を指します。具体的にはスズ(Tin)、タンタル(Tantalum)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)の4種(総称して「3TG」)が該当します。これらはパソコンやスマートフォンなど、私たちの電子機器に欠かせない資源です。これらの鉱物の多くは、紛争が続くアフリカ中部のコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)やその周辺国で採掘されており、私たちの身近なものでは、例えば携帯電話などにも紛争鉱物由来の金属が含まれている可能性があります。

紛争鉱物がもたらす問題

 コンゴ東部は世界有数の鉱物産地で、コバルトは埋蔵量で世界1位、スズは8位、銅は10位とされ、また、タンタル、タングステン、金なども豊富に産出されています※1。しかし、こうした豊富な鉱物資源が、地域の発展につながるどころか、むしろ紛争を長期化させる要因となってきたのが、コンゴ東部の現実です。1996年には民族対立を背景に第一次コンゴ紛争が勃発し、1998年には周辺国をも巻き込む形で第二次コンゴ紛争が発生しました。2003年に紛争はいったん終結しましたが、その過程で鉱物資源は武装勢力の戦闘資金の調達手段として利用され、地域経済は武力による資源支配と取引に依存するようになりました。このように、鉱物資源が本来果たすべき地域の発展を促す役割を果たせず、かえって武力衝突を支える経済構造となっている点が問題視されています。現在も、100以上の武装勢力が鉱山周辺を実効支配し、鉱物の採掘や取引によって得た利益をもとに、武力衝突を続けています※2

 こうした紛争鉱物の問題は、深刻な人権侵害や環境破壊を引き起こしています。まず、コンゴ東部をはじめとする紛争地帯の鉱山では、住民が武装勢力に拉致され、鉱石採掘の労働を強制させられる事例が多数報告されています※3。また、10代前半の子どもたちが、鉱山での肉体労働や武装勢力の見張り役として動員される児童労働も横行しています※4。加えて、多くの女性が集団レイプなどの性暴力の標的となり、鉱山周辺地域では性的サービスの強制や、望まない妊娠、早期出産の増加などの被害も報告されています※5。これらの非人道的行為は、基本的人権を著しく侵害する深刻な社会課題となっています。

 加えて、違法かつ無秩序な採掘は、熱帯雨林の大規模な森林破壊や河川の水質汚染といった深刻な環境破壊をもたらしています。具体的には、コンゴ東部の鉱山開発では、違法な小規模採掘などにより、保護地域を含む広大な熱帯雨林が失われています※6。特に、オカピ野生生物保護区周辺では、数十平方キロメートルに及ぶ森林が破壊され、鉱山からの排水や化学物質による水質汚染が川や湖に深刻な影響を及ぼしています。鉱山から発生する酸性廃液や重金属を含む物質は水源に流れ込み、飲用や農業への利用が困難となっています。その結果、土壌浸食や農作物の収量低下、住民の健康被害(流産・感染症の増加)などが報告されています※7。これらの環境破壊は、自然環境への悪影響にとどまらず、農業や漁業といった地域住民の生活基盤を壊し、生計手段を奪うことで、人々の生活に深刻な影響を与えています。

※1 https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2021/01/trend2020_cd_data.pdfより
※2 https://www.gao.gov/products/gao-22-105411?utm_source=chatgpt.comより
※3 https://www.genocidewatch.com/single-post/special-report-conflict-minerals-in-the-drcより
※4 https://www.dol.gov/sites/dolgov/files/ILAB/child_labor_reports/tda2022/Congo-Democratic-Republic-of-the.pdfより
※5 https://www.iom.int/news/shattered-future-sexual-violence-and-child-exploitation-eastern-democratic-republic-congoより
※6 https://miningfocusafrica.com/2023/01/16/congo-kinshasa-mining-and-armed-conflict-threaten-eastern-drcs-biodiversity-in-a-complex-web/?utm_source=chatgpt.comより
※7 https://raid-uk.org/wp-content/uploads/2024/03/Report-Beneath-the-Green-DRC-Pollution-March-2024.pdfより

紛争鉱物問題の解決に向けた取り組み

 紛争鉱物問題を解決するためには、原材料の採掘段階で生じる人権侵害や環境破壊をサプライチェーン全体で見逃さない仕組みが必要です。紛争鉱物におけるサプライチェーンとは、鉱山で採掘された原石が精錬・加工され、電子部品として成形され、さらにそれが製品に組み込まれて消費者の手元に届くまでの全過程を指します。これまで、その流れの最も上流にあたる採掘現場で、住民の強制労働や児童労働、女性に対する性暴力、森林伐採や河川の水質汚染などの深刻な問題が起きていても、企業は「その鉱物が問題のある鉱山で採掘されたものかどうか」を把握できないまま部品を調達してしまうことが少なくありませんでした。

 こうした状況を是正するため、国際社会はサプライチェーン全体の透明化、いわゆる「責任ある鉱物調達」の推進に取り組んできました。まず、米国では2010年に成立した米国金融規制改革法(通称ドッド=フランク法)1502条※8によって、上場企業に対して、製品に含まれるスズ・タンタル・タングステン・金(3TG)の原産地を調査し、その結果を開示することが義務付けられました。これにより、企業が自社サプライチェーンの最上流にまで目を配り、紛争地域由来の鉱物の使用を避ける取り組みが加速しました。欧州連合(EU)も同様の方針を採用しており、EU紛争鉱物規則に基づき、域内で鉱物を輸入・加工・流通させる企業に対し、人権や環境リスクの管理および情報開示を義務付ける制度を2021年から運用しています。さらに、経済協力開発機構(OECD)は2011年に「デュー・ディリジェンス・ガイダンス※9」を策定し、企業が鉱物調達において遵守すべき5段階のプロセスを示しました。具体的には、①調達方針の策定、②サプライチェーンのリスク評価、③リスクへの対応措置、④第三者による監査、⑤最終的な情報開示の5つのステップで、責任ある調達を支援する国際的な基準として機能しています。日本にはこれらを直接義務付ける法律は現時点では存在しませんが、OECD加盟国として、欧米企業との取引を維持するために、多くの日本企業が自主的にサプライチェーン調査を行い、その結果をCSR報告書などで公表しています。

 このように、企業側が調達の透明化に取り組む一方で、消費者も「エシカル消費 」という視点から問題解決に参加することができます。具体的には、消費者が「コンフリクト・フリー」や「責任ある鉱物調達」を掲げる企業の製品を積極的に選ぶことで、企業に対してさらなる透明性の向上やデュー・ディリジェンスの徹底を促す圧力となります。また、消費者がサステナビリティレポートを読み込み、責任ある鉱物イニシアティブ(Responsible Minerals Initiative)に登録された企業や製品を支持し、購買行動を通じてサプライチェーン全体の改善を後押しすることによって、紛争地域における人権侵害や環境破壊の抑制につながることが期待されています。

※8 https://mric.jogmec.go.jp/reports/current/20120906/1236/より
※9 https://mneguidelines.oecd.org/OECD-Due-Diligence-Guidance-for-RBC-Japanese.pdfより

    

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